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内田魯庵全集 8 随筆・評論 IV

『内田魯庵全集 8 随筆・評論 IV』 ゆまに書房、1987年

「焚書」が気になって図書館で蔵書検索をしていたときに、魯庵の「焚書是非」や「典籍の廃墟」「図書館の復興と文献の保存」「書籍の破壊」などがこの本に入っているのをみつけて、借りてきて読んでみる。

魯庵が書いているのは、征服者などが書籍に対してはたらいた狼藉のこと、宗教者が異端の信仰を滅ぼそうとしたこと、そして地震(関東大震災)によって破壊された本のことである。

征服者によって、文化が破壊され、書籍が焼かれるということは、歴史をみるかぎり、くりかえし、くりかえしおこっている。災害による亡失もまた、同じである。

「池水火風に亡び易い書籍が燼滅し亡佚するは當然の運命で、藝術は永しへであつても之を盛るの書籍は決して不朽不壊では無い。古今各國書籍の散亡が屡々繰返されるは書籍を構成する材料が耐久的で無いからで、永しへの生命あるべき藝術や思想が不慮の災禍の爲めに灰となり土となつて、空無に消えて了つたのも亦必ず少なくないだらう。」(p.280)と魯庵は書いている。 *燼は、[火偏に盡]、佚は[人偏に失]

焚書というと、そりゃイカンという考えがすぐさま浮かんでしまうが、魯庵が書いているのを読むと、震災で本が焼けて残念なのかよかったのか、どっちなのかという感じである。
▼物には惣て壽命がある。不朽の文學とか不滅の藝術とか云つても一千年以上を経て光輝を失はないものは極めて稀れである。文學其物、藝術其物が不朽不滅であつても之を盛つた容器の書籍は性質上決して不朽不滅では無い。…書籍は如何に大切に保存しても材料の性質上永久に耐へられるものではないので、壽命は限られてをる。文献の散亡などと左も歴史上の大事件であるかの如く騒がれているが、書籍は散亡すべきが當然の運命である。が、書籍は散亡しても記憶や口碑で古い時代の事跡も傳はれば古い哲學や文學も残る。古代の知識は書籍の形を借りないでも傳承される。…古書の滅亡は學術上悲しむべき惜むべき事であるが、畢竟するに聖人も英雄も死ぬと同じく物の免るべからざる定命であつて、歴史が之が爲めに無くなりもしなければ學術の進歩が停止されもしない。(pp.274-275)

皮肉をこめた反語的表現だろうが、この後ろには孝行したいときに親は無しの喩えをもって、「不孝者でも死んだとなると親を懐かしがるやうに愛書家でないものでも書籍が稀覯となる俄に書籍を大切にする」と魯庵は書く。

古い本が永久に焼けもせず朽ちもせずに今に伝わって、朝から晩まで何百年も前のカビ臭い表紙ばかりをかいでいたら、どうよ?と魯庵はいうのだ。そりゃ作者と同じ時代の空気を感じることもできるだろうが、といって、色あせた古本の表紙ばかりに陶酔していると、ミイラ取りがミイラとなるのとおなじで、「我々の頭脳[あたま]の仲間で色が褪せて黴が生える」と。

書籍が少なかった時代には焚書は文化の大惨害であっただろうけれど、今みたいに魚が卵を産むごとく、本が濫造されている時代には、焚書はかえって自然の文献淘汰で、読書人の無益な時間つぶしを救うのだと。

魯庵はものすごい読書家であったという。
その魯庵が、本は思想や信仰を盛った器であり、その器はたとえ破壊されようと、思想や信仰はつぶしきれないのだと書いているのには、目をひらかされる思いがする。

もちろん魯庵は、関東大震災にあって、保存のための努力が払われないままに、文化の精髄というべき書籍が失われたことを惜しみ、「貴重な文献及び古美術に対する防火設備の怠慢である」と言い、貴重な本は複製し副本を作ることを考えるべきだと書いている。

600ページ余りの、旧字表記の文章を、はしからはしまで読むことはできなかったものの、絵葉書や古本、蔵書票など、本にまつわるあれこれが書かれていて、またそのうち借りてきて、他のページも読もうと思った。

「読書は文化的享楽」という一文もじつにおもしろかった。
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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