読んだり、書いたり、編んだり 

困ってるひと(大野更紗)

困ってるひと困ってるひと
(2012/06/21)
大野更紗

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図書館で単行本を借りて読んだ『困ってるひと』が、文庫になったというので買ってきてまた読む。『現代思想』6月号の尊厳死特集に、大野さんと川口有美子さんの対談「生きのびるための、女子会」があって、それも読み、『困ってるひと』をまた読みたいと思っていた。

再読ということもあって、半年あまり前に読んだときとは、また違うところに自分が反応したりする。とりわけ、医療難民と化していた大野さんが、ようやくたどりついた病院「オアシス」の主治医・クマ先生、その上司・パパ先生とのバトル。

大野さんの「難」は、医療のたすけなしには生きていけるものではなくて、医学的にはトレビアンな「オアシス」があってこそ、大野さんは生きのびることができたともいえる。だが、その「オアシス」の先生方は、世間の激動や患者本人の苦労・大変・障害・福祉・暮らし…などに対して、あまりにも鈍い。その認識は、年相応のただのおっさんたちだ。…ということが、大野さんにも分かってくる。

大野さんは、退院して(福島のムーミン谷に帰るのではなく)都内の「オアシス」近くでひとり暮らしを始めようとしているのに、鈍チンすぎるパパ先生は、大野さんのご両親に「社会の制度や障害の制度や他人をむやみに頼ってはなりません。そういった精神が治療の妨げになります」(p.343)という意味のことをぬかしたらしい。

そういうのに頼らずに、どないして暮らせっちゅーねん!!! である。
おっさん先生たちにとって、大野さんという患者は「超頑張って製作した「悲劇的で美しい作品」なのかもしれないが、そのおっさんの美学につきあわされて、「いつか必ず、お嫁にも行けるし、子どもも産めます」などと、はぁ?といった説教をかまされてはかなわない。その前に「わたしが死なないかどうかを心配してほしい」と大野さんが書くのも、もっともだと思う。

▼パパたちにはわたしの世にも稀なる「難」の応援隊にはなってほしいが、パパたちの「美学」に付き合って死ぬのはちょっと嫌だ。というかすごく嫌だ。「難」だけで充分だ。(pp.328-329)

「オアシス」のようなトレビアンな医療機関はないかもしれないという実感の一方で、大野さんは、先生方の言動に、それはどうなのよと他にも書いている。

▼いつも先生たちは、「よくなってます」と繰り返し言う。一辺倒に言い続ける。これはお医者さんという生き物の癖なのかもしれない。
 わたしは正直、百万回以上の「よくなってます」に辟易していた。ステロイドや免疫抑制剤の副作用で次第に身体が喰われていくのに、いいときも悪いときもあるのに、ひたすら念仏のように「よくなってます」と唱え続けられるのはなんだか違和感がある。…(中略)…
 苦痛に耐え、「社会」と激戦しているのはわたしなのに、よくなってるかよくなってないかを無理矢理決めつけられているような気もする。そんなに無理に「よくなってます」と唱えなくてもいいのではないだろうか。…(中略)…
 「よくなってます」と何が何でも言いたいのは、それは、先生なのではないだろか。(pp.316-317)

「わたしの意見はイケンのか」という小見出しもあったりする。大野さんの退院後の生活にとって超重要な「主治医の意見書」をクマ先生は、大野さん本人に何も聞かず、何の相談もせずに書いた。その内容は、さまざまある支援項目のほとんどの欄に「必要ない」のチェックマークが入っていた、というもので、読者の私もぎょっとする。

この「オアシス」の先生たちは、あまりの激務で病院の中ばかりにいて鈍チンになってるせいなのか、患者のデイリーライフ(病院の外の暮らし)における「難」を、病院内の世界のこととして判断しているらしい、と大野さんは感じはじめる。

お医者さんという生き物の言動では、私もいろいろ「ちょっと、それどうやねん」と思うことには出会っているので、大野さんが医療や病院や医者のことであれこれ書いてるのを読みながら、つい思い出し怒りにみまわれたりする。

そして、関電が万一の計画停電に備えろと言うてる今、大野さんがひとり暮らしのための引っ越し準備をしていたときに、難病男子の「あの人」が言ったこんな言葉が、わけても印象に残った。

▼「エコとか、ロハスとか、ライフスタイルとかの問題じゃないからね。ほんとに。衛生環境とか暖房とか、安全性とか重さとか使いやすさとか、居住環境は生き死にの問題だから」
 「筋力がない、体力がない、免疫力がない、ってことがどういうことかまだ具体的にわかってないでしょ。元気だったときのイメージしかないでしょ。道具で工夫して、極力消耗を抑えないと、防衛しないと、在宅生活なんてとてもできないからね。覚悟してね」(p.284)

居住環境は生き死にの問題だから

(6/23了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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