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四十九日のレシピ(伊吹有喜)

四十九日のレシピ四十九日のレシピ
(2011/11/02)
伊吹有喜

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妻の乙美を亡くした良平のもとへ、イモこと井本がやってきた。そこへ、やはり傷心の、良平の娘・百合子が帰ってくる。

イモは乙美がボランティアに通っていた施設にいた。そして乙美から「自分が死んだら、四十九日あたりまで家の片づけなどこまごましたことの面倒をみてほしい」「自分の四十九日には明るくて楽しい大宴会をしてほしい」と頼まれていたと言い、乙美の机から「暮らしのレシピ」と書かれた冊子をとりだした。

イモがいたのはダルクハウスのような互助施設、アルコールやセックスなどの依存から抜け出そうとする女の子のための「リボンハウス」だった。乙美はそこでいったい何を教えてたんだ?という良平に、イモは「暮らしのレシピ」カードのことを語った。
▼「全部が全部じゃないんだけど、リボンハウスに来る子は…家が恵まれていないことも多くて。本当、単純に物の食べ方とか、話し方とか、洗濯、掃除の仕方? ちゃんとした下着のつけ方、ゴミの始末の仕方、そういうことすら、わからなくて。教えてもらえなかったし、聞けないし、聞ける相手もいなかったし」
 聞ける相手が身近にいたら、断ち切れぬ習慣に溺れることもなかっただろうと井本は言った。
 「そうなる前に、きっと相談もできただろうし」
 …
 「リボンハウスのリボンって、英語で再生とか生まれ変わりって意味らしいんだけど、たしかに私、先生とあのカードに出会って変わった。今の自分は身体にいい食べ方を知って、料理や掃除もできて、自分を大切にできる。手持ちのカードが増えていったら、自分に誇りが持てるようになった。すごいじゃん、こんなこともできる、あんなことも知ってる私、って感じで」(pp.67-68)

その「暮らしのレシピ」のカードがどうやってできたかを、乙美のかつての同僚で友人の聡美はこう語る。

▼「このレシピのカードねえ、これこそ乙美さんの…年表かもしれませんね」
 「自分は親がいなかったから、母親がいれば当たり前に教えてもらうことを教われなかった。だから人に教えてもらったことや、気付いたことをひとつひとつ忘れないように書き留めてきたって」
 「…当時はカードに鉛筆でぎっしりと米粒みたいな字が並んでいて、でも十年前に見たときは、こんなきれいな絵になっていました。心に余裕ができて、ひとつひとつを清書していったのかもしれません」(p.215)

清書されたカードには、娘の百合子をモデルにしたと思われる女の子の絵が、かわいらしく描かれていた。

乙美は、リボンハウスの女の子たちが、生活を立て直してハウスを出ていくときに、必ず「あしあと帳」をつくって渡していたという。「○○さん、△△年、□□に生まれる」から始まる各ページには、○○さんから聞き取ったできごととイラストが描かれ、その下には各年のニュースが書かれていた。

四十九日の大宴会では、宴会芸のかわりに、乙母の「あしあと帳」を、模造紙に書いて、壁にぐるりと貼ろうとアイデアが出たが、いざつくりはじめてみると乙母(おっか)さんの年表は思いのほか埋まらない。しらべながら、乙母と自分は血のつながりがなく、その人生についても多くを知らない、けれど自分は乙母が好きだったと、百合子は乙母の人生を思い、涙を流す。

大宴会にあつまった、親戚や友だち、リボンハウスの女の子たちが、それぞれに乙美と自分のことを書き込み、絵や写真を貼り、メッセージを残していく。宴会がおひらきになるころには、年表はすっかり埋まっていた。年表をはがした百合子は、年表を抱きしめ、「これが乙母さんの人生…私の、お母さんの人生」と泣いた。戦災で母をなくした乙美は、前妻を亡くした良平との結婚で、百合子と親子になったのだった。

リボン、re-born、再生。それぞれの再生が書かれた物語。

(6/17了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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