読んだり、書いたり、編んだり 

きりこについて(西加奈子)

きりこについてきりこについて
(2011/10/25)
西加奈子

商品詳細を見る

きりこは、ぶすである。

巻頭からこの一文で、ちょっとびっくりする。「ぶす」とわざわざ太字である。以後、ずっとずっと本のなかは太字の「ぶす」が続く。

ぶす」のきりこ。ラムセス2世という猫。セックスが好きな自分の欲望に忠実に生きるちせちゃん。話は大きくこの三者ですすんでいく。

自分が自分であること、ただそこに在ることを、つかんでいこうとするきりこ。

▼…そもそも、自分は自分として生まれてきたというのに、誰かになりすまして生きる、などということをきりこは理解出来なかった。
 誰かの基準に寄り添うことなく、誰かの真似をするでもない。ただ自分がみんなにとってはぶすであるという事実、そしてそれによって、自分のきらきらした少女時代は失われたという現実を受け止めたきりこは、自分を見ないでいよう、と決意した。自分が自分である限り、現実に苦しめられるのであれば、その原因である自分を、見なければいい。
 きりこを苦しめているのは、きりこの見た目だけ、それはただの「容れ物」に過ぎないのだが、思春期のきりこには、そこまで慮る余裕はなかった。(pp.110-111)
▼猫に似ている人間と猫との違いは言うには及ばないが、もっとも重要なことであり、決定的なことは、知っていることと、知らないことの違いであった。
 …
 猫たちはすべてを受け容れ、拒否し、望み、手にいれ、手放し、感じていた。
 猫たちは、ただそこにいた。
 ただ、そこにいる、という、それだけのことの難しさを、きりこはよく分かっていた。
 人間たちが知っているのは、おのおのの心にある「鏡」だ。その鏡は、しばしば「他人の目」や「批判」や「評価」や「自己満足」、という言葉に置き換えられた。(pp.128-129)

セックスが好きなちせちゃんが、出会い系サイトで出会った相手と、やる気はあったが生理が始まって急のその気がなくなり、「やめろ」と再三言ったのに、相手がむりやり「つっこんで」きた、そういう体験をしたあとで、きりことちせちゃんは同じような体験をした女性たちのための団体へ相談にいった。警察では、「出会い系サイトを利用したあなたが悪い」「同意の上だったのでは」と相手にしてもらえなかったからだ。

しかし、相談に行った団体でも、ちせちゃんは「男の人を刺激するような服を着てる」とか「自分の体を大切にしてない」とか、「あなたは被害者とは言えない」といわれる。そう言う相談の久方さんに、ちせちゃんは「はあ?」と言い返す。

そのちせちゃんを、きりこは、綺麗だと思った。
▼目が大きいからじゃない、唇がつやつやとひかっているからじゃない。ちせちゃんは、ちせちゃんその人だから。他の誰でもないから、綺麗だと思った。
 ちせちゃんは全身で、「あたしはあたしだ」と、叫んでいた。(p.155)

きりこは、ちせちゃんの隣から、久方さんに言う。

▼「ちせちゃんは、ちせちゃんでおるだけやねん。他の誰かの真似をする気はないし、出来へんと思います。ちせちゃんはセックスが好きで、いろんな男の人としたいと思ってる。でも、嫌や、て思ってるその瞬間に無理やりセックスされたんやったら、それは、レイプやわ。ちせちゃんは、久方さんさんに慰めてほしいわけやなくて、心のひだつ、やなんて言うてほしいんやなくて、勇気とか、そんなもんいらんねん。被害者やのに、隠れるようにせなあかんこと、恥ずかしいことやと思わされることに、腹立ってんねん。それと、セックスをたくさんしてるから、体を大切にしてへん、のやなくて、ちせちゃんは、自分の体が何をしたいかをよく分かってて、その望む通りにしてるんやから、それは、大切にしてる、ていうことやと思う。自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらんと思うから。」(pp.155-156)

「自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。」
きりこは自分自身に言い聞かせる。

ぶすって、何だ。
 誰が決めたのだ。目が大きいのがいいって誰が? 顎の下がなだらかなのは、美しくない? では、美しさとは? 誰が決定する? 誰が?
 露出の多い服を着ていれば、ただちにレイプされるのか? レイプをされれば、心を奪われたことになるのか? セックスが好きなのは、自分の体を大切にしていないこと? 体の欲求に素直なことは、「自分を大切に」していると、言えないのだろうか?(p.158)

「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」
「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」
きりこは、ラムセス2世にそう宣言するのだ。

きりこの、すべてが、きりこ、なのだ!そんなきりこを、私は愛したのだと、ラムセス2世はつぶやいて物語は終わる。

(6/14了)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4367-da24fc01
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ