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イエスの言葉 ケセン語訳(山浦玄嗣)

イエスの言葉 ケセン語訳イエスの言葉 ケセン語訳
(2011/12/15)
山浦玄嗣

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山浦玄嗣さんの書いたものを初めて読んだのは、たまたま借りてきた『海が呑む』に特別寄稿として収められていた「3.11 巨大地震津波体験記」である。この人のケセン語訳を読んでみたくて、図書館で順番がまわってくるのを待っていた。図書館の本をしまいまで読んだ日に、じっくり読みたくて本屋で買って帰ってきた。

人の幸せとは何かと問う福音書の心を、イエスの言葉を、ふるさとの仲間にふるさとのことばで伝えたい。独特の翻訳用語で理解しにくい聖書を、ふるさとの仲間がするすると理解できることばで伝えたい。その思いで、山浦さんは聖書をそれが書かれた古代ギリシャ語から、ふるさとのケセン語に訳してきた。

私には、岩手のケセン語は必ずしもわからないけれど、それでも新共同訳による聖書のことばよりは、ケセン語によるイエスの言葉は、おなかに落ちてくるようだった。血が通うことばは、こういうものかと思った。聖書は訳語が何だかよく分からないまま遠く感じていたが、「人の幸せとは何か」を問うたイエスの言葉は、信仰がどうとかはおいても、魅力があった。

巻頭でケセン語訳される「神さまの思い」
▼初めに在ったのァ
 神さまの思いだった。
 思いが神さまの胸に在った。
 その思いごそァ神さまそのもの。
 初めの初めに神さまの
 胸の内に在ったもの。

 神さまの
 思いが凝[こご]って
 あらゆる者ァ生まれ、
 それ無しに
 生まれだ者ァ一づもねァ。

 神さまの思いにァ
 あらゆるものォ生がす力ァ有って、
 それァ又、
 生ぎる喜びィ人の世に
 輝がす光だった。

 光ァ人の世の
 闇ィ照らしてだったのに、
 闇に住む人ァその事に
 気ァ付かねァでだったんだ。(p.15)

関心が外に向いていない人、つまりは自分のことにしか関心がない人は、目を閉じている状態と同じで、いくら光が輝いていても、それが見えない。もしこの世が闇だというなら、それは外に関心をもっていないからだ、目をひらいてよく見ろ!というのが神のことばだと山浦さんは書く。

「光」と読むと、「この子らを世の光に」という糸賀さんの言葉を思う。世の光とは何だろうと、山浦さんのケセン語訳を読みながら考える。

恐ろしい津波が去って3日目に、小雪の舞うコヒドロ山にたどりついた山浦さんが見たのは、壊滅した大船渡町のありさま。気持ちがことばにならないような状態で、まっさきに山浦さんの心に浮かんだのは、イエスの最期のことばだった。

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ!」

山浦さんのケセン語訳では、こう記される。
「神さまんすゥ、神さまんすゥ、何故[なして]俺ァどごォ見捨てやりァしたれ?」(p.236)

自分のことばを理解されず、誤解され、曲解され、憎まれ、ついには十字架にぶらさげられたイエスが、「神さん、なんでワシのことを見捨てるねん」と叫ぶ。それは、神を呪う絶望のことばのように聞こえるが、それこそが誤解だと山浦さんは解く。これは決して絶望の叫びでも、恨みの声でもないのだ。

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ!」は、ダビデ王が絶望の淵にあった時に歌った有名な詩の冒頭の発句なのだと。ユダヤ人は、幼いときから旧約聖書をそらんじ、なかでも詩篇は朗詠され歌われ親しまれていて、たとえていうならば百人一首の上の句を聞けば下の句がスラスラと浮かぶように、冒頭のこの一句を聞くことで、ユダヤ人の心にはそれに続く一連の詩がスルスルと浮かぶのだと。

そのダビデ王は詩のなかでさんざんに神に悪態をつき、しかしその末尾に至って、神への信頼を叫ぶ。「助けを乞ひつつ御身に叫びて救はれざること絶えてなく、御身を頼うで見捨てられたる例[ためし]なし」と。わかってんねん、神さん、あんたは、助けてくれというたもんを、あんたを頼ったもんを、見捨てたことはあらへんねん、と。

この言葉から、山浦さんはイエスの思いをおしはかる。
▼イエスは何を願い求めていたのでしょう、それは、人が本当に幸せに喜びに満ちて生きるにはどうすればいいのかということを伝えたかったという、まことに単純なそのことにつきます。でもまさにそのことが既存の伝統や習慣の中でくらしている人びとの価値観と大きく衝突することになってしまいました。かれの言葉は危険思想視されました。かれは捕らえられ、反逆罪という冤罪のもとに磔刑によって殺されました。(pp.237-238)

おおむかし、子ども向けの伝記シリーズで、ヘレン・ケラーや野口英世やガリレオと並んで、イエスの1冊も読んだ記憶がかすかにある。イエスという人は、どう伝えられてきたんやろうと思う。

長崎の被爆について永井隆が「神の摂理」といい「神の与えた試練」だと語ったという言葉なども、ケセン語訳を読みながら、読みなおしてみたいと思う。

(6/8了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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