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わたし“前例”をつくります─気管切開をした声楽家の挑戦(青野浩美)

わたし“前例”をつくります─気管切開をした声楽家の挑戦わたし“前例”をつくります
─気管切開をした声楽家の挑戦

(2012/04/25)
青野浩美

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医療にかぎらないが、"前例がない"というのは、ときに「やる気ない」というだけちゃうんかと思うことがある。あるいは知らんだけとちゃうかと思う。病気の診断にしても、治療の選択にしても、予後がどうとかにしても、それなりの臨床例の積み重ねがあるのだとは思う。でも、やったことがないことは、わからへん。見たことがないものは、ないのと同じ。

医療の"前例"に照らすと、同居人が11年前にやった病気は「悪性」だった。「悪性のような良性」「良性のような悪性」と、どっちやねん、なんやねんと思うことばにふりまわされた数ヶ月。最終的に担当医たちは、自分たち自身が線を引き直す経験だった、というようなことを言っていた。

"前例"がなかった臨床例、それが青野さんの喉の穴。
命をつなぐため、青野さんは数年前に気管切開をした。喉に穴を開けたら、歌うどころか、話すことだって難しいと言われている。それが医療の常識だった。

喉に穴が開いて、それでも青野さんは歌っている。そこに至るまでには、タイトルにあるように「わたし"前例"をつくります!」という思いと、それに向けて可能性を探った日々があった。
大学卒業を前に、青野さんの身体に異変が起きる。体中から力が抜けて、動けなくなった。リハビリの甲斐あって、車椅子で移動できるようになったが、どれだけ検査をしても「異常なし、なぜからだが動かないのか原因不明」のままだった。

それでも異変の前と変わらぬように、車椅子で青野さんはとびまわっていた。そんなある日、無呼吸発作が起きる。声楽家としてやってきた青野さんは、気管切開して呼吸器をつけるかどうかでものすごく悩む。「命があったら歌えるかもしれへんやろ。命がなかったら歌もくそもないんちゃうんか!」という声に、青野さんは喉に穴を開けると決める。

気管切開をしてから、声を取り戻すまで、「前例がないならつくればいい」「あきらめない」という青野さんの挑戦が続く。それは「気管切開=声が出なくなる」という医療の世界の常識への挑戦でもあった。

気管切開し、自分にあうスピーチカニューレを探しだし、声を出せるようになり、歌っている青野さん。その活動に欠かせないのが痰の吸引器と人工呼吸器。その2つの機械を持参して、アルバイトに出かけ、コンサートに出かけてきた。

でも、気管切開をし、喉に穴が開いているというだけで、行きたいところに行けず、やりたいこともできない人たちが大勢いる。たとえば学校では、痰の吸引などの「医療的ケア」は、生きていくために必要なことなのに、学校の先生にはできませんということになっていたので、喉に穴を開けた子は、学校へ行けないこともあった。学校を出てどこかの施設へ通うにも、それは同じだった。

喉の穴が、「ふつうに暮らす」ことの制限になる。
そんなんおかしいやんという思いで、青野さんはコンサートなどで医療的ケアについて話すこともある。

136~140ページのコラムには、気管切開のこと、医療的ケアのことや暮らしの豆知識が書いてあって、呼吸器はこんな風になってるんかとよくわかる。本についてるパスワードで、青野さんの歌もダウンロードして聴ける。

(6/9了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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