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手をつなぐ子ら(田村一二)

手をつなぐ子ら(田村一二)手をつなぐ子ら
(1966/09)
田村一二

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こないだ読んだ『賢者モ来タリテ遊ブベシ』がおもしろかったので、田村さんの別の本を借りてみた。あとがきによると、この『手をつなぐ子ら』は、昭和18(1943)年に書いたもので、昭和24(1949)年に稲垣浩さんの手で映画化され、昭和39(1964)年に羽仁進さんによって再び映画化されたのだという。再出版の自序によれば、「若い時に、自分の目、自分の体で精薄[精神薄弱児]をつかむのだと気負い立っていた頃に書いた」もの。

「ごく小さい時病気をして、そのために頭が悪くなった」中山寛太は、いくつかの学校をかわったが、友だちからいじめられるだけでなく、先生から持てあまされ、もう手に負えないと放り出されていた。

寛太の父は召集令状がきて出征したが、戦地からの便りは寛太を案ずるばかりで、寛太の母は、もうここ以外に変わる学校はないと思って校長に頼みにきたのだった。

母と校長から話を聞いて、「中山寛太君、引き受けます…そのような特殊な子供を教えた経験はありませんが、及ばずながら頑張ってみます」と松村先生は引き受けた。この本は、寛太が小学5年の途中から入り、6年で卒業するまでの1年あまりのあいだに、子供らがどんなふうに寛太と関わり、松村先生がどう寛太を指導し、寛太はどう育っていったかを描く。
「理解のある校長と、正しい愛を持った松村先生の下に、親切で明るい級友たちに囲まれて」、寛太の学校生活はたしかに変わったのである。いじけて、妙におどおどした態度は、次第に明るい落ち着いたものに変わっていった。

しかし、寛太にとって楽園と思われた学校に、思いがけない「敵」があらわれる。山金こと山田金三が転校してきた。山金は、愛すべき寛太に憎しみを燃え上がらせ、腕力と喧嘩上手とその凄貌で下級生を従えていった。

小さい子が泣かされたり菓子をまきあげられたりし、町内への落書きなどの狼藉もひどくなった。松村先生は同僚の先生から「山金の奴、一度、うんととっちめてやったらどうだ」と言われるのだが、それに対して、松村先生は「あいつは淋しいんだ、自分の今まで受けてきた冷やかな待遇を思いだして、温かい空気の中にいる者がみな羨ましくて憎くてしようがないのだ、しかし、あいつの心を冷たく凍らせている氷がとけはじめたら、あいつは本物になる、もうしばらく辛抱してくれ」と頼む。

▼「だって、あいつ一人のために、みんなが」
「いや、その一人が大切なのだ。その一人を救うことが、われわれ教育者の仕事ではないのか。それは、救って貰うことが必要なのはその一人だからだ。溺れかかっているのはそいつなんだ」(p.46)

山金が自分に敵意を持っていることなど少しも知らない寛太は、誰に対するのとも同じように、山金とも接した。その寛太の笑顔と態度が、山金を苦しくさせる。

はじめのうちは、寛太をいじめることにだけ楽しみを見いだしていたような山金の心がゆれはじめ、ときには不機嫌で苦しそうになり、苦しまぎれにひどい悪戯をしたりもみられた。松村先生はそんな山金を「この頃の山金をみていると、涙がこぼれそうになるのだ。かわいそうに、こいつ、今、苦しんでいるのだ、もうしばらくの辛抱だ、耐えてくれ、頑張ってくれ、と祈りたくなってくるのだ」と語る。

「山金の変化は、直接的には、寛太の力みたいなもんだな…寛太の絶対無差別のにこにこ顔が、山金をして、初めは馬鹿にさせ、次に呆れさせ、最後に、参らせたという訳だね」(p.69)と同僚の先生はみてとる。

そんな中、山金の寛太に対する悪戯がひどすぎると、級長の奥村と山金がついに喧嘩をした。そして奥村が勝ち、山金は負けた。奥村はみなからほめられ、山田は手下共が離れ、二人の間はビミョウになる。

松村先生は、奥村にこう言ってきかせる。
「奥村、お前の次の敵は、お前の仲間だ、お前をほめる連中だ。しかし、お前は決して負けて、乗ぜられるようなことはない。山田の次の敵は、あれの手下共だ。しかし、山田もきっと勝つ。その時、お前と山田とは、しっかり手をつなぐことができる。」と。二人とも苦しいだろうが、急いではいけない、耐えていけと。

喧嘩の原因は寛太ともいえるが、その寛太だけは、二人と自由にしゃべった。誰もが山金に近寄らなくなってからも、寛太の態度だけはちっとも変わらなかった。そして、奥村も山田も、寛太のこだわらない気持ちと行動のおかげで、寛太を通じてお互いの気持ちを感じあうことができたのだ。

そして、山田と奥村がついに手をつなぐことのできた落書き消しの話、相撲大会の話と読んで、寛太も、山田も、奥村も、みんな「子供は子供のなかで育つ」のやなあと思った。子供たちをじつによく見ている松村先生もいいのだが、校長先生が子供たちに聞かせる訓話もまたいい。

できへん子は"義務教育でも落第"などと言ってる首長は、やっぱりちゃうやろと思う。

(5/23了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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