読んだり、書いたり、編んだり 

サラの鍵(タチアナ・ド ロネ)

サラの鍵サラの鍵
(2010/05)
タチアナ・ド ロネ

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映画にもなっているらしいが(私は見ていない)、小説があるというので図書館でしばらく待って借りてきた。少しだけサワリを読んで、移動の際のお供にするつもりが、結局イッキ読みしてしまう。読んだあと、サラのこと、ジュリアのことで頭がいっぱいになって、なかなか寝付けなかった。

1942年7月、ナチ支配下にあったフランスのパリで、フランス警察の手によって大規模なユダヤ人狩りが行われたという、いわゆる「ヴェルディヴ事件」の史実をもとに、この小説は書かれている。このとき4000人もの子どもが親とともに連行され、アウシュヴィッツ収容所へ送りこまれた。帰ることのできた生存者はごくわずか。
収容所を脱走し、ひとり生き延びたサラ。フランス警察がアパートにやってきて自分たちを引き立てていこうとしたときに、サラは4歳の弟を秘密の納戸にかくし、鍵をかけた。そうするのが一番いいと思ったから。おねえちゃんが必ず出してあげる、すぐ戻るからと声をかけたサラ。

けれど、サラや両親は、ひどい環境の競技場に数日のあいだ収容されたのち、アウシュヴィッツへ送られる。ずっと、ずっと、ずっと弟のことを案じつづけたサラ。収容所を脱走し、近在の親切な村人にかくまわれたときにも、パリのアパートへ明日にも行きます、弟が待ってるからと言いつづけた。

「ヴェルディヴ事件」60周年の記事を書くことになったジャーナリストのジュリアは、自分が全く知らなかったこの事件のことを調べながら、サラという少女のことを知る。

小説は、現代のジュリアと、あの事件に遭ってしまったサラとを、交互に描きながらすすむ。

人を人と思わない態度が向けられたカテゴリーの一つ「ユダヤ人」。アパートから引き立てられる以前にも、サラには納得のできない理不尽なことがさまざまあった。父に問いかけても母に問いかけても腑に落ちる説明をもらえなかった。状況を十分に知らずにいたために、自分がよかれと思って納戸に隠した弟を、絶望のなかで一人ぼっちで死なせることになってしまった。そのことが、競技場や収容所で見聞きした事態以上に、サラを苦しめたのだと思う。

生きのびたサラが、家族をもち、子どもをもったあとに自死したというところで、プリーモ・レーヴィを思いだした。そして、フランス警察自身がユダヤ人迫害をおこなったというこの事件のことを知って、ポーランドのイェドヴァブネ事件のことを思いだした。

45歳のジャーナリスト、ジュリア。今の自分とそう変わらない歳のジュリアが、過去の事件を取材し、サラの消息を追っていく姿には共感するところが多かった。フランスと言えばナチへのレジスタンス、そんな風に思われている国で、過去にあった大規模なユダヤ人迫害の史実は、そういう過去をもつ国の多くと同じように、あまり思いだしたくないものであるようだ。

ジュリアの夫は、取材を続けるジュリアに、「そんなことを気にかけるやつは、もう一人もいないぞ。そんなことを記憶している人間だって、もういないさ」と言ってのける。もうすんだことじゃないか、どうしていつまでもこだわるんだと。

過去の事件、知らなかったこと。自分には関係のないことだ、自分はうまれてさえいなかった、自分がそれをやったわけではない─言い逃れることはできる。でも、ジュリアは、知ったことを、わがこととして掴もうとした。過去のことではなく、自分につながることとして。

▼「わたし、自分が何も知らなかったことを謝りたいんです。ええ、四十五歳になりながら、何も知らなかったことを」(p.278)

知らなかったことを、謝ることができるジュリア。このことにも深く心をうたれた。

(5/4了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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