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うつくしい人(西 加奈子)

うつくしい人うつくしい人
(2011/08/04)
西 加奈子

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前にみかけた別の文庫本を借りようと思ったら貸出中だったので、西加奈子の他の小説を借りてみる。

職場で急に泣き出して、会社をやめた百合。私はだめだ、何もできないという強烈な自己否定。18のときから引きこもっている姉に加えて、自分も社会の落伍者になってしまったという思い。

何かを変えたかった。変えるべき「自分」もないのに、何が変わるというのか、と思いながら、外に出なければとほとんど強迫的に百合は旅に出る。

瀬戸内の島にあるリゾートホテル。ウェルカムドリンクをサービスするというバーにいたのは、不器用でみっともないバーテンダーの坂崎。ホテルの敷地で、死んでるかと思うような寝方をしていたのは、流ちょうな日本語を話すマティアス。彼は時間がたくさんあるという。仕事をしていなくて、たくさんお金があるという。

ホテルの地下にある図書室と、バーと、島のなかをぐるぐるとめぐりながら、物語はすすむ。百合は坂崎とマティアスと話しながら、姉と自分のことをぐるぐると考える。

▼母親に、それが「人生」というものだからと言われ、男の子らしく友達とサッカーに興じ、酒を飲んで冗談を言い、肩を叩き合って、女に恋をした、ような気になる。でも、心のどこかでは、いつも「これで合っているのか? 間違っていないか?」と思っているマティアス。誰かに答えを聞かないと、不安になる。合っている? 間違っていない?
 マティアスの気持ちが、痛いほど分かった。(pp.106-107)
なぜこのホテルを選んだのかと問われて、百合は考える。職場で急に泣き出した女がやってくるのに、ちょうどいいと思ったから。

▼いや、それだけか。違う、海だ。海の青さ、その「ただそこにある」無機質な佇まいが、胸を打った。「そこにある」だけのことが、どれほど難しいか、私はよく知っている。(p.134)

このホテルに泊まった人たちが本を置いていく図書室。けれどここに本を読みに来る人はほとんどいないという。じゃあこの部屋は別にいらないんじゃないのかと思う百合。

▼「…でも、本を置きに来るんです。吸収するだけじゃなくて、置いていくことも必要なのかもしれない、と思います。」
 坂崎は、しみじみとそう言った。何故かその言葉は、私の頭に素直に入って来た。吸収すること、身につけることだけが、人間にとって尊い行為なのではない。何かをかなぐり捨て、忘れていくことも、大切なのだ。昨日、カートのスピードに合わせて、衣服を脱ぎ捨てていくような感覚に襲われたことを、思いだした。(pp.206-207)

その感覚を思いだしながら、百合は思う。

▼泣くことも「置いていく」ことに、なるのだろうか。(p.218)

そして、泣いて泣いて、泣く理由も失っているのに涙は流れ続け、涙が出つくしたときに、百合は姉に会いたいと思うのだ。こわれかけていた百合が、じわじわーと治っていくようなものがたり。

文庫のカバー、どっかで見た絵…と思ったら、イラストは小林エリカ。
ある日、職場で涙がとまらなくなって(あー辞めなこわれる)と思って辞めたときのことを、ちょっと思いだした。

(3/2了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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