読んだり、書いたり、編んだり 

ラジ&ピース(絲山秋子)

ラジ&ピースラジ&ピース
(2011/10/14)
絲山秋子

商品詳細を見る

借りたい本を何冊か、プラス軽いやつと文庫のなかから何冊かと拾ってきた本。表題作と「うつくすま ふぐすま」の2篇収録。「うつくすま ふぐすま」は、「うつくしま ふくしま」というやつかな~と思ったら、会津出身、横浜出身のふたりの女性の話だった。

表題作は、群馬のローカルFM局で番組を担当する女性の話。仙台のラジオ局で担当していたニュース番組が終わり、無性に新しい土地へ行きたくなった野枝は、あちこちの放送局の面接を受ける。それで受かった群馬のFM局で、野枝は午後の新番組「ラジ&ピース」のパーソナリティを務めるようになる。

リスナーから送られてくるメールも増えてきた。その全てに目を通しながら、野枝は考える。「楽しいトークなんて番組の中だけのものだと思っている。自分の違う人格がやっている仕事だと思っている。」番組のオンエア中にも、自分は何だと思う。「さまざまな恋愛経験をしたふりをしなければならない。いつでも隠していた知恵を取り出せる女のふり。それがパーソナリティ。」
ある日、野枝は気づく。
▼野枝の声が空を飛んでいるのではなかった。
 リスナーたちが空を飛んで、スタジオの野枝のそばに座るのだった。…
 からっぽのブースにたくさんの心が集まるのだった。
 読み上げるメールも、読まないメールも、それから送信されないメールも同じことだった。
 ラジオは発信されるものではなかった。人が集まるところにたまたま野枝がいる、そういうことなのだと野枝は思った。(pp.94-95)

「ラジオは発信されるものではなかった。人が集まるところにたまたま野枝がいる、そういうことなのだ」と読んで、はっとする。情報を発信する、発信、発信、発信、というのが攻撃的なほどにネットなんかを飛び回ってるなーという感じがこのごろとみに強くなっていたが、メディアはそういうどっちか向いただけの矢印のようなものじゃなくて、つながる場なんだろうと思った。

自分が発信の中心にいるように思っていた野枝が、そうではないと気づいたとき、野枝の自意識のヨロイもすこしほぐれる。誰からも干渉されたくないと思いつのっていた野枝の、人との関わり方に変化がうまれる。

「うつくすま ふぐすま」は、同姓同名の回文女子、二人の中野香奈の話だった。

「オトコに脳味噌はいらない」と思っていた中野香奈。自分とつきあうような大抵のオトコは凡庸。彼氏の慎一郎のこともこう思う。
▼凡庸な証拠にかわいそうな慎一郎は言うのだ。
 やっぱり年金のこととかしっかり考えた方がいい、とか。
 ほんとは俺の方が運転が上手い、とか。
 十年たったら俺の方が稼いでる、とか。
 見苦しい。
 小さな、小さな、男のプライド。そして見栄。ハナの差でいいからつきあっているオンナに勝ちたい気持ち。もしも男性全体として女性にちょっとでも勝っているのなら、俺がだめでも俺はおまえにちょっとだけ勝っている。なんだそりゃ。(p.149)

あー、おかしい。こんな感じで慎一郎に対するコメントが差し挟まれつつ、話のメインストリームは、妹を通じて同姓同名、6つ上の中野香奈さんと会う中野香奈のこと。「ナカノさん」「カナさん」とポジションはすぐ決まって、そしてときどき会うようになった。何でも忘れちゃうナカノさん。だけど、その行動からナカノさんはちゃんとした人なんだなと香奈は思う。

ナカノさんと会うのは楽しい。しかし慎一郎とは、今では一個の話題が五分で終わる。昔は0個の話題で無限大にしゃべれたのに。「だめだこいつ」「捨てちゃわないと」と思うこともある。

「何度もやってるけど、オトコと別れるのってどうしてこんなに気分がいいんだろう」と、そんなところで話は終わる。おかしくて、おもしろかった。

(12/31了)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4202-440a9b4c
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ