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コーヒーもう一杯(平 安寿子)

コーヒーもう一杯コーヒーもう一杯
(2011/10)
平 安寿子

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あったら借りてきて読んでしまう平安寿子。しばらく予約待ちかな…と思ってた本を書架にみつけてほいほい借りてくる。たしか、カフェをつくるという話。

32歳、山守未紀は、3年つきあってた琢次に終わりにしたいと告げられる。20歳で入った店舗内装デザイン会社で12年、琢次との「結婚」も少しは考えていたところが、つきあいが消滅し、情けないことに世界の終わりみたいに無力感にとらわれてしまった。

それでも社会人、やらねばならぬ仕事がある。健気に努力する未紀の前に、大嫌いなクライアント・梶原茉莉がカフェの内装変更をしたいとあらわれた。気がついたら未紀は、あなたの店がうまくいくとは思えないとぶちまけていた。

「へえ、だったら、どうやったら成功するかもわかってるわけね」
「少なくとも、あなたよりはね」
「だったら、やってみなさいよ。成功する店がどんなものか、見せてもらいたいもんだわ」

と、お互い売り言葉に買い言葉。さすがに店を持つなど考えたこともなかった未紀は口ごもり、ほら口だけと茉莉に罵られる。琢次と結婚してマイホームを買うつもりで貯めた金が300万円、あれを資金にして「やってみようか」と未紀の心に浮かんだ。そして、流れは「カフェをひらく」方向へ。
それでも未紀は、どこかで(ここはあきらめるしかない)という壁があらわれることを願っていた。一番の問題は資金面。相談して止めてもらおうと母のところへ寄った未紀は、思いがけず「やりたいことがあるんなら、守りに入らずチャレンジしてほしい」という母の言葉にどーんと背中を押される。

おまけに母はその場で昔の貸しがある、なんといっても公務員だと従妹に保証人を打診する電話をかけ、あっさりオーケーが出た!ドッカーンと、前に向かって突き飛ばされ、未紀はもう引き返せないところに踏み出してしまったとぞくぞく思う。

▼後戻りして、どうなるの。
 ゴッデス・クリエイトの社員として、茉莉に頭を下げ、召使いのようにこき使われて、それが賢い生き方だと自分を抑えて、つまりはだまして、それで後悔しないと言えるのか。
 不動産屋の坂田が言った。それじゃ、山守ちゃんの人生がもったいない。
 こうも言った。山守ちゃんなら、できる。
 そして止めてくれるだろうことを期待して訪れた母が、未紀の子供心に芽生えていた憧れだけでなく、保証人になってくれる親戚まで掘り出した。
 もしかしたら、これが「運命」なのかも。(p.73)

守りに入るには若すぎるくらいだと自分を励ましながら、未紀は「ひなたカフェ」開店にこぎつける。「店を持つのは簡単」。だが、そこからが。「頑張ってます、けど…」。お客はなかなか来ない。売り上げは目標のはるか下をうろうろするばかり。今晩はもう少し開けていようか、あともう少し頑張れば、あと5千円はいくかもしれない…毎日、毎日頑張るものの、客は増えない。売り上げが上がらないので、仕入れの費用も縮小。それでも赤字、赤字、赤字。

「挫けちゃ、いけない。頑張れ、わたし。」そう自分に言い聞かせながら、未紀は働く。今の状況ではコストをかけるより自分の身を削るほうが気が楽だ、と思いながら働き続け、ある朝、未紀はブラックアウトする。暗い顔をして、お金のことばかり考え、追い詰められてると自覚した未紀は、現実から目をそむけきれなくなり、撤退を決めた。そして、オープンからちょうど1年、契約を解除した。

オープンするのが思いのほか簡単だったように、廃業も簡単だった。
借金が残った。身の丈にあわせて、生活をダウンサイジングし、未紀はシェアハウスに引っ越した。他の住人との共同生活を選んで、「元気は、人がくれるんだ」と未紀は思う。

そして、「今度こそ、人に求められる場所を作りたい。今度こそ、心を込めたい。頭と心と手がひとつながりで働くよう、経験を積み重ねていきたい。」と未紀が新たな仕事に向かうところで物語は終わる。

計画どおりにはいかない未紀のカフェ経営の日々を読んでいて、お客に選んでもらい、お代をいただく、その難しさは同じやなあと思う。あの店へ行き、この店へ行かないのはなぜか、あの雑誌を買い、この雑誌を買わないのはなぜか。自分に置き換えても、何に財布を開き、何に払うか、というところのハードルの高さは分かる。そのハードルに、どう臨んだら糸口がつかめるのか、どういう方向へ頑張ればいいのかと、そんなことも思いながら読んだ。

最後のあたりで「失敗したからって、それが何? 経験値が増えて、語りぐさもできて、人生が豊かになる。それのどこが悪いの」てなセリフを書きこむところが平安寿子の小説で、そこがやっぱりスキやなあ。

(12/25了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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