読んだり、書いたり、編んだり 

月曜日の朝へ(朝比奈あすか)

月曜日の朝へ月曜日の朝へ
(2010/10/27)
朝比奈あすか

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『憂鬱なハスビーン』を読んで、それから『光さす故郷へ』を読んで、図書館で空いていた新しめの小説を借りてきてみた。「クロスロード」と、表題作の2つの中篇が収められた本。

時間にタラレバはないけれど、もしあのとき違う道を選んでいたら…と思うような気持ちを書いた話だった。暴力について書いてるなとも思った。津村記久子の小説にもどこか通じるものを感じた。

『憂鬱なハスビーン』みたいに、わかるようなわからないようなわかるような…気持ちになった。

会社で請求データの打ち込みを3年続ける実里と、大学を出て勤めに出ることなく子どもを産んだ専業主婦の木綿子と、かつての同級生の交わりそうもない時間が、クロスする。中1のときに「水泳でオリンピックにでる!」と書いた実里と、「優しいお母さんになる」と書いた木綿子。
大学まで水泳を続けてきたものの、勤めるようになってからは泳ぐ機会も久しくない実里は、上司に「こんなのリンショクさんにやらせたっていいって思ってる」と言われる打ち込み仕事を続けながら、上司に怒鳴られると竦み、自分はいなくてもいい存在なのではないかという思いにみまわれる。転職していった元同僚から、軽んじられた事実に心が細くもなった。いまは下積みの時期よと先輩に諭されながら、「いつまでですか。一生だったらどうすればいいんですか」と食いさがりもした。

上司に怒鳴られることをおそれていた実里は、部署再編の動きのなかで、その上司に「こっちも機械じゃないんで」と言ったとき、自分自身が飛び込んでここまで泳いできたのだと気づく。

3歳の息子が、周りの子と比べて育ちが遅いと感じる木綿子は、「いっそ、言語障害とか発育障害とか、なんでもいいから決めて欲しい」という思いにかられる。6つ離れた姉がいつも「なんでもできる子」と言われ、親戚たちからも姉は優秀、妹は器量よしと区別されていた木綿子は、学校で「かわいい」とささやかれるようになる。中1の終わりに女子グループから省かれるようになって、居場所確保のために次々と男の子と付き合った、と思う。

かつて付き合った加治木、以前は夫の親友だった人が医師を務める病院へ息子を連れて受診した日に、木綿子は自分の中の穴を見る。

▼幸せとは杯を満たすことではないのだろう。楽に満たせる程度の杯しか持たず、しかもそこには常に注がれている。たとえ底に小さな穴があいていても、私はこの先もずっと注がれ続け、空になる日はきっと来ない。一年後も五年後も、十年後もまでも同じ水をもらい錆びつくことのないこの杯の、何が私をここへ運んだのか。たとえ加治木に会ってみたところで穴のひとつがしばらく埋まる程度の変化に過ぎなかった。そんなこと、とっくに気づいていた。(p.91)

表題作は、印刷会社に入って4年目の瑞貴の話。配属されているのは、希望とは違い、実験的な「マルチメディア」の部署。末期ガンが分かった母を見舞いに、週末ごとに都内から山梨の実家へ帰り、月曜にまた出社する日々。瑞貴はウィークデイの始まりが、そう嫌いではないという。駅からローヒールの踵を鳴らして歩きながら、「会社へ向かう一歩一歩のこの音で、自分が徐々に仕事モードへ入ってゆくのがわかる。その感覚が好きだ」という。

職場では、毎度「起きられないほどの頭痛で」と言いながら頻繁に遅刻してくる入社1年目の後輩・市川にいらだち、学生時代からのつきあいの南川君とも、母の見舞いに実家へ毎週帰るようになってから、微妙な間合いが続いている。

3年生存率5パーセント以下、という母のガンを兄から知らされて、学生時代にはそう頻繁に帰ることもなかった実家へ、今は週末ごとに帰る。瑞貴の子どもの頃からの、爪を噛む癖はひどくなり、「3年生存率5パーセント以下」という不安をかみころすように順に噛む爪は、十指すべて、これまでにないほどひどいことになっていた。

ラスト、母の数値がもちなおし「退院!」という兄からのメールを読んで、瑞貴が心をはずませ、上司に早退を申し出る場面に、少し救われた。

▼退院が、前進ではないことを、わたしたちは知っている。薄い氷の上にそうっと置かれた卵を守るように、わたしたちはただ寄り添うしかできない。…
 それでも、しばらくは寄り添える。(p.231)

(12/24了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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