読んだり、書いたり、編んだり 

舟を編む(三浦しをん)

舟を編む舟を編む
(2011/09/17)
三浦 しをん

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三浦しをんの『舟を編む』、どこかで辞書をつくる人の話らしいと聞いて、読んでみたいな~と思っていたが、図書館では100人以上待ち! 1年か2年後かな~と思っていたら、社納さんが貸してくれはるというので、ほいほいと借りてくる。日曜の行商に出るまえに、ぐぐっと読んでしまった。

聞き覚えのない言葉を即座に記録し、この言葉とこの言葉の使い方、ニュアンスの違いは何かと辞書を引き、ある言葉をどう説明するかに腐心する、人生を「辞書」づくりにつっこんだそんな何人かの話。

玄武書房の営業部から辞書編集部に引き抜かれた馬締(まじめ)光也を中心に、『大渡海』という辞書づくりの話が始まる。

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
「海を渡るにふさわしい舟を編む」
馬締は、はっきり言って「変人」だ。大学に入学したての頃から早雲荘に住んで10年近く経つ。近頃はやらない木造二階建てのアパートで、下宿人はもう馬締ひとり。一階の空き部屋を馬締の本が次々と占拠し、ひとのいい大家のタケばあさんは本の侵攻に負け、二階へ移り住んでいる。

馬締とこのタケばあさんとの会話が、かなりおかしい。辞書編集部へ移った当初、馬締は新しい職場で頭が破裂しそうだとタケばあさんに話す。「あらま、脳みそだけが取り柄のみっちゃんがねえ」と言われて、基本的に一人で書店まわりをすればよかった営業部と違って、辞書編集部では全員で考え、工夫し、作業を分担する必要がある、それが自分には大変なのだと馬締は語る。

▼「俺は、考えることはいくらでもできますが、なにを考えたのかをひとに説明するのがうまくない。端的に言って、辞書編集部内で浮いているんです」
 「みっちゃん。いままであんたが、浮いてなかったことがあるのかい。本ばっかり読んで、ここにだって友だちも彼女も一人も連れてきたことがないじゃないか」
 「いませんから」
 「だったらいまさら、なんで浮いてることを気に病むのかねえ」(pp.34-35)

そして、タケばあさんは、言い当ててみせる。「みっちゃんは、職場の人と仲良くなりたいんだね。仲良くなって、いい辞書を作りたいんだ」。そう言われて、自分の中に渦巻く感情は「伝えたい、つながりたい」というものだと馬締は思い当たる。

本ばっかり読み、言葉につっこんで、大学では言語学を専攻した、ちゅうても、自分の感情に必ずしも適切な言葉を与えられるわけではなかったりして、その馬締の変人具合が他の人とのあいだでも遺憾なく発揮されて、笑わせる。

そんな馬締も恋に落ちる。お相手はタケばあさんの孫、香具矢(かぐや)さん。板前でもある香具矢さんは、料理の修業のためには言葉が必要だということを語る。

▼「…馬締が言うには、記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです」
 「おいしい料理を食べたとき、いかに味を言語化して記憶しておけるか。板前にとって大事な能力とは、そういうことなのだと、辞書づくりに没頭する馬締を見て気づかされました」(pp.212-213)

馬締が辞書編集部に配属されてから十数年を経て、いよいよ『大渡海』は完成に向かっていた。だが、『大渡海』の監修者で、この辞書編纂に文字どおり生涯をかけた松本先生が、完成を前にして亡くなられる。先生の死を思い、「言葉はときとして無力だ」と馬締は思う。けれど、「言葉があるからこそ、一番大切なものが俺たちの心のなかに残った」と、馬締はありし日の先生の姿を思い起こす。先生のことを「語りあい、記憶をわけあい伝えていくためには、絶対に言葉が必要だ」と。

紙の辞書を、あれこれとめくり、さまざまな言葉を引きたくなる物語。

(12/4了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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