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憂鬱なハスビーン(朝比奈あすか)

憂鬱なハスビーン憂鬱なハスビーン
(2010/10/15)
朝比奈あすか

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ふと借りてきて読んでみたら、わかるようなわからないようなわかるような…話だった。東大卒、ユウメイな会社に入り、弁護士と結婚して、退職した凛子、29歳。

ハローワークへ行って、凛子は「払い続けた保険料を合法的に回収するために仕方なくここにいるのだ」と自分に言い聞かせる。再就職セミナーの会場で、凛子は熊沢君に再会する。かつては凛子も通っていた進学塾で一番の優等生だった熊沢君。模擬試験のたびに1位を常に守り続けていた彼は、小学5年の秋の終わりに、家庭の事情で引っ越して、そして忘れられた。

熊沢君は、凛子のことをたずね、そして自分のことを何も訊かない凛子に、Mr.Has Been、一発屋、かつては何者かだったヤツ、そして、もう終わってしまったヤツ、と言うのだった。
育ちのいい、同じ東大卒の夫。自分のことを「全部」好きだと結婚式で言ってのけた、素直な夫。息子のせいで、凛ちゃんのキャリアを中断させて申し訳ないわと何度も謝る夫の母。何の悪意もない、夫の母。

勤めていた外資系企業では、スピード出世して、プロジェクトのサブリーダーを任されるまでになった凛子は、自信に満ちあふれ、胸をはっていた。それが、あるときから心がすくむようになり、言葉が出なくなり、気がついたら担当していた仕事のすべてから外されていた。心療内科に通うようになり、身体には明らかな変調をきたし、凛子は「適応障害」と診断された。

「…適応障害っていうのは、ある特定の環境や状況に適応できていない状態を言うんでね、あなたの場合は、お話を伺って言うと、原因が会社や仕事に限られているように思いますから」(p.124)

心療内科でそう言われ、会社や仕事に適応できずにおかしくなっているなんて、ひどく恥ずかしいと思い、「環境を変えてみることで、随分と症状が良くなるものなんですよ」と言われて「そんなこと絶対にできません」と答えた凛子。

まだ仕事を再開しないのか、前の会社に戻れないのかと、悪気なく言う母親に、凛子は泣きながらこう言っていた。
▼「家事なんて家政婦にやらせればいいとか、専業主婦は虚しい生き方だとか、どうしてそういう教育したの? 子育てするとき、一つの生き方しか子供に見せないのって、すごくリスキーなことじゃない? 仕事や学歴は裏切らないって言い聞かされて、だから私は努力したけど、所詮そういう生き方ってお母さんの知らない世界だったんでしょう。経験もないことを人に押しつけて、勝手に満足して、私がもうとっくに裏切られちゃってたこと、知りもしないでさ」(p.136)

実家から帰る電車で、幼い娘を連れた母親に凛子は席を譲る。その親子の姿をみながら、不意に「あの頃に戻りたい」と凛子は思う。

▼あの頃に戻って全てをやり直せるのなら、そうしたら自分はどんな生き方を選ぶのだろう。もっと違う人生、例えば違う学校に入って違う仕事に就いたのだろうか。違う人に出会って違うところに住んで、今この瞬間も全く違う何かを見ているのだろうか。
「なんだかなあ」
つまらないことを考えている自分に苦笑した。(p.141)

私は私に、まだなにを期待しているのだろう。


(11/20了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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