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無国籍(陳天璽)

無国籍無国籍
(2005/01/15)
陳天璽

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法のはざまなどで、「無国籍」状態におかれる子どもがいるのは知っていた。血統主義、しかも1984年に変更されるまでは父系血統主義だった日本では、日本人の父と外国人の母との間にうまれた子どもが、認知などの問題で父方の国籍を得られず、しかしその母の国が生地主義をとっていたりすると、宙ぶらりんになるのだった。いわば「強いられた」無国籍。どちらも選べなかった結果。

私が知っていたのはそれくらいのことで、この本で、選択した「無国籍」のことを初めて知った。

著者・陳天璽(チェン ティエン シー)さんは横浜の中華街うまれ。中国の北・黒龍江省出身の父と、中国の南・湖南省出身の母は、第二次大戦後の国民党と共産党の政権争いの末にできた中華人民共和国をはなれ、台湾へわたった。台湾は、中華民国の臨時政府(国民党政権)が設けられた。陳さんの両親は台湾で出会い、結婚した。陳さんの父が日本へ留学、その後に一家は日本へ移住することになった。陳さんは、六人きょうだいの末っ子として、家族のなかでは一人だけ日本で生まれた。

1972年、中華人民共和国と日本との「日中国交正常化」宣言のうらで、日本政府はそれまで国交を維持してきた中華民国・台湾との国交を断絶した。日本に住む中国人、華僑のあいだには衝撃が走る。
中国人といっても、日本政府の認める「中国」が変わったのだ。国交のない中華民国籍を維持するのか、国交のある中華人民共和国籍に変更するのか、日本国籍に帰化するのか、あるいは。

陳さんの一家も、連日話し合い、選択に苦悩する。陳さんの父は最終的に、中国も日本も選択せず、「無国籍」になるという結論を出した。

▼…国は国籍という制度を設けることによって、自国の国民を規定し、その権利と義務を定める。しかし、戦中、戦後を通して「国」自体が大きく変わり、父や家族はその度に翻弄されてきた。国籍を取得することを拒否し、どの国の枠組みにも入らないという「無国籍」。この選択をすることによって何が起きるのか、誰にもわからなかった。
 父は最後に、「無国籍もひとつの『国籍』だ」、自分に言い聞かせるようにつぶやき、決断した。
 国籍をどうすべきか、いろいろと暗中模索していた父は、友人に聞いたり自分で法律を調べるなかで、「無国籍者は国際法上守られる」という情報を入手していたらしい。(p.23)

父がこの決断をしたとき、陳さんは1歳になったばかりだった。この本は、横浜中華街に生まれ育ち、日本になじめない思いをいだき、香港へ、そしてアメリカへと留学し、自身の経験もあわせ「無国籍」について研究してきた陳さんの半生が書かれている。

アメリカ留学時代に、「I'm Chinese」と自己紹介しても、自分のアイデンティティとはどこかそぐわないと感じていた陳さんは、ドイツ人の母、ブラックの父の間にうまれドイツで育ったと自分を語る人と知り合い、自身の説明も変わっていく。「I'm Chinese,but born in Japan」と自己紹介したとき、ほっとした気持ちになる。

「無国籍」を研究するようになって、陳さんはさまざまな人に出会っていく。かつての運動の成果も知る。たとえば無国籍が外国人登録の一つのカテゴリーに入るよう努力してきた人たちがいたこと。このことで、無国籍者は少なくとも外国人と同じだけの権利を享受できるようになったが、それまでは日本人か外国人かという区別のもとで、無国籍者はまるで透明人間だったという。

陳さんにそのことを教えた平田正代さんはこう語った。
▼「たいていの場合、無国籍者は外国人よりもレス(less=より少ない、より価値の低いという意味)だと思っている人が多い。しかし、無国籍も選択によるもので、国籍の一つであるという考え方があることをもっと多くの人は知るべきです。無国籍だからといってレスでは絶対ないと思います」 (p.154)

陳さんの父が選択したように、国の政治変動や政治体制に賛同できず、生来の国籍を放棄して無国籍を選択する人は多いという。たとえばロシア革命時の白系ロシア人、ベトナム戦争時のベトナム人。

本文では中国語よみの「チェン ティエン シー」をパスポート取得の際に苦労して通したことが書いてあるのに表紙と奥付に「ちん・てんじ」とルビが振ってあるのは、なんでなのかと思ってしまった。

「無国籍」と図書館の蔵書検索をしてみると、やたら料理の本が引っかかる。その中で、陳さんの『忘れられた人々 日本の「無国籍」者』と、かなり古い本だが羽仁五郎の対談集『無国籍の論理』があったので、予約してみた。

(11/5了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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