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デフ・ヴォイス(丸山正樹)

デフ・ヴォイスデフ・ヴォイス
(2011/07)
丸山正樹

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8月だったか、新聞でこの小説についてちょろっと紹介が出ていた。「手話通訳士」が絡むらしいというのと、そもそも「デフ・ヴォイス」(聾者の声)というタイトルが気になって、図書館にリクエストしてみたら、わりとすぐ届く。

伊丹の「地域生活支援のあり方を、当事者・行政・事業者・市民で考えるフォーラム」に出て、手話通訳さんたちの"伝える"力のすごさを見て、帰ってきてから『デフ・ヴォイス』を読みはじめたら、そのまま最後まで読んでしまった。

「コーダ」「デフファミリー」「日本手話」「対応手話」「刑法40条」「ろう文化宣言」「聴覚口話法」「バイリンガル教育」――そういう話が出てくる。タイトルの「デフ・ヴォイス」にはいくつもの意味が込められていると思える。この小説に出てくるある事件は、聾者の声がひとつの手がかりとなって、事実関係を明らかにする糸口がみつかるのだ。

小説の最初は、手話通訳士の試験場面から始まる。主人公の荒井尚人は試験を受けている。読み取り・筆記通訳の試験、聞き取り通訳の試験、読み取り・口話通訳の試験と順にあって、それが二次試験らしい。荒井は学科試験と二次試験とも一発で合格し、通訳として順調に仕事をスタートする。そして、ある障害者支援のNPOから専属的に通訳をしてくれないかと依頼をうけ、聾者が被告となった事件に関わるようになる。そのなかで、森本事件(『生涯被告「おっちゃん」の裁判』で出てくる森本さんは、手話もできない、字も読めない、もちろん口話も無理という聾者で、600円の窃盗で20年近くを「被告」として過ごした)のこともふれられる。

かつては、警察に勤め、事務をしていた荒井がその仕事を辞めたわけも、離婚したわけも、聾者から「あんたは俺たちの仲間」だと言われるわけも、小説の半ばあたりで明らかになる。
荒井はコーダだった。CODA、Children Of Deaf Adults、聾の大人のもとにうまれた子ども。両親も兄も聾者で、家族のなかで聴者は荒井だけだった。幼いころから、聞こえる世界との通訳として荒井はずっと過ごしてきた。

▼親からすれば、「聴こえる」荒井については心配いらない、その分「聴こえない」兄を庇護しなければ、と思うのは当然だったかもしれない。だが幼い荒井にとって、親の態度の違いは、「自分が愛されていない」と感じるのに十分だった。
 両親は、兄のことがすべて分かった。兄は両親の世界の一部であり、兄にとってもまた、両親は世界の一部だった。
 そして、自分は彼らの世界の一部ではなかった。両親は、「聴こえる」自分のことを分からなかった。そして自分も、「聴こえない」両親の、兄のことを、分かることはなかったのだ。(p.104)

NPOスタッフの片貝は、荒井とは逆に、家族のなかで一人、自分だけが聴こえなかった。普通の子、聴こえる子になってほしいという両親の思い、聴者の子どもたちに負けたくなかったという片貝の思い。
▼〈両親がありのままの私を受け入れてくれることは〉〈ついにありませんでした〉〈両親が手話を覚えることも〉〈なかった〉
 〈私たちは〉〈結局一度も〉〈まともに会話したことさえなかったんです〉 (p.103)

荒井が個人的にこだわり、謎を解こうとした事件の鍵を握る人物もまた、コーダだった。

小説の単行本には珍しく、本の終わりには著者の「あとがき」があった。身内にろう者がいるわけでも、手話を学んだことがあるわけでもない人だという。取材によって、聾の世界やコーダの思いをこんな風に書けるのかと思った。

(9/11了)
 
Comment
 
 
2011.09.17 Sat 09:46 乱読ぴょん(冠野 文)  #-
丸山様
コメントをありがとうございます。
私はすこしばかり手話をやっているので(近所の手話サークルにも入っているので)、やはり関係者?なのかもしれません。木村晴美さんの本や『コーダの世界』をはじめ、巻末の参考文献にあげられているものは、読んだ本がけっこうありました。

小説というかたちをとって、こんな風にも書けるんやなあと思いました。
また発表される作品がありましたら、ぜひお知らせください。読んでみたいです。

Re: ありがとうございます  [URL][Edit]
2011.09.14 Wed 19:18 丸山正樹  #-
初めまして。
拙著お読みいただき、また、丁寧にご紹介していただき、ありがとうございます。
刊行後、ろう者の方や手話通訳士の方々からはたくさんご意見をいただいているのですが(もちろん、それはとても貴重なものです)、関係者?以外の方にこれほど丁寧な感想を書いていただいたのは初めてのような気がします。
次作の発表のあてはまだありませんが、今後も精進していくつもりです。
また読んでいただければ幸いです。

丸山正樹
ありがとうございます  [URL][Edit]






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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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