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親愛なるキティーたちへ(小林エリカ)

親愛なるキティーたちへ親愛なるキティーたちへ
(2011/06/13)
小林エリカ

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小林さんの本は、『この気持ちいったい何語だったらつうじるの?』、それから『空爆の日に会いましょう』をこれまで読んだ。新刊の『親愛なるキティーたちへ』は、アンネ・フランクの日記と、アンネと同年生まれの父の日記、二冊の日記を携え、ドイツ、ポーランド、オランダを旅した記録。アンネが死んだ場所、生きた場所、死から生へ、アンネが生きた場所と時間を遡る旅。

十歳の夏に出くわした『アンネの日記』を愛読してきた小林さんは、父が80歳を迎えようとする年に、その父が旧制中学時代につけていた日記帳を見つける。もしもアンネが生きのびていたなら、アンネもまた80歳を迎えたかもしれない年なのだと、小林さんは気づく。

小林さん自身の旅の日記をまじえ、アンネと父と、二人の日記を読みながら、旅が続く。
ベルゲン・ベルゼン収容所へ行き、そこから最寄りのツェレの町へ戻り、始まったばかりの旅がはやくも憂鬱だと小林さんはこう書いている。

▼一体全体、その時代に生きていた人たちは、こんなにも無残に人が殺されてゆくのを、いったい、どうして平気で見過ごすことなんてできたのだろう。けれどどうして、そんな事態を、誰一人止めることができなかったのだろう。そこに生きていた人々は野蛮人ではない。学校へ行って、本だって読んでいた。 
 私は憤りながら、クリームスープをスプーンですくう。
 学校へ行って、本を読むと、野蛮なんてめではないほど野蛮に、そして残忍で無関心になるのか?
 しかし、今を生きる私は、それと全く同じ問いを後に投げかけられることになるのか?
 この時代に生きていた人たちは、こんなにも無残に人が殺されてゆくのを、いったい、どうして平気で見過ごすことなんてできたのだろう。
 けれどどうして、いま私たちはたったいま起きている事態を、誰一人止めることができないのだろう。(pp.50-51)

それから小林さんがアウシュヴィッツへ行ったときの記述には、かなりびっくりした。
▼ピンクや黄色のカラフルな壁の団地を過ぎたところにある、ちょっとした住宅街の真ん中。フェンスが張り巡らされた小さな裏口の扉をくぐる。するとそこはもう、アウシュヴィッツ強制収容所の敷地だった。(p.80)

帰りのバスは、アウシュヴィッツのまわりを一周するように走り、バスの窓からはガス室の煙突が見える。
▼そのすぐ隣にはもう家が建ち並んでいる。収容所でもミュージアムでもない。ごくあたりまえにこの場所に暮らしている人たちの家だ。家には白いレースのカーテンが揺れている。部屋が覗いて見える。(p.109)

収容所が絶滅のために動いていた頃からいまのような住宅街があったのかどうか。どっちにしろアウシュヴィッツの収容所跡のすぐ隣には家が建ち並んでいるというのが、うまく想像できない。

その後、ベルリンで友人とその友人たちとおしゃべりしたとき、小林さんがアウシュヴィッツへ行ってきたと話すと、イタリア出身のイングリッドが子どもの頃の話をする。学校の宿題で、収容所のまわりに暮らす人のインタビューをしたことがある、第二次世界大戦中に収容所のまわりに住んでいて、その後もそこに住み続けている人たちは、イングリッドにこんな話をしたという。
▼戦争中は、銃の音とか、しょっちゅう聞こえたよ。うるさかったね。でも、いまじゃ平和になったし、収容所を見に観光客もけっこう来るし、よかったよね。そんな調子だったのよ。子ども心にとても傷ついたわ。
 イングリッドは笑ってみせる。
 だってそこでは人が殺されていたのよ、なんかこうもっと言うことないわけ?! ってね。(p.127)

学校へ行き、本も読む野蛮人は、たくさんいるような気がしてきた。自分自身、知らないばかりで、すぐ近くで起こっていることを見過ごし、止めることができていないのではと思えてならない。

(8/8了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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