読んだり、書いたり、編んだり 

なんにもうまくいかないわ(平 安寿子)

なんにもうまくいかないわなんにもうまくいかないわ
(2009/06/05)
平 安寿子

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親本のときにも読んで、文庫になってからも一度読んだのを、なんとなくまた読みたくなって借りてくる。これは並河志津子、しーちゃんの話を束ねた短編集ともいえるけど、しーちゃんを絡ませてその周りの人を書いてるんやなあとも思う。

今回は「タイフーン・メーカー」がとりわけおもしろかった。職場でなぜか「マッチ」と呼ばれることになった25歳、片上直哉が、上司である志津子の公私混同ぶり(それもしーちゃんの豊富な人脈が業務に還元されているので黙認されているふしがある)、オンとオフの線引きのなさに日々巻き込まれ、憤慨しているさなか、一度は夢に見た放送作家のアシスタントをしないかという話が飛び込んできて、舞い上がる。

「やりたい仕事のオファーがあった」志津子に告げて、退職願を書き、アシスタント業に飛び込むが、そこはほとんどパワハラの世界。
「自分で考えようとするな」「俺の考えを吸収するんだ。そう努力しろ」とのたまう放送作家に、「俺のアシスタントをやるからには、俺の気分に敏感になれ」とも言われ、分刻みの要求に無表情に「はい」と答えるのが精一杯の一週間。次の一週間がすぎると、直哉は胃の壁から出血していた。

「マッチ、元気?」とノーテンキな声でかかってきた志津子の電話に、直哉は「相談していいですか」と会いに行く。放送作家のアシスタントをした二週間の日々を洗いざらい話したら、志津子は平静にこう言った。

「そういう人間、よくいるよ。自分のこと、スペシャルだって人に見せるのに夢中になってるやつ。ある程度の力あるから、仕事はできる。だけど、人を育てる力はないよ。だから、そばにいても、いいことにはならないと思う」

自分を殺せとたった二週間言われ続けただけで、すっかり自信をなくし、この苦しさから逃げ出していいのかということさえ自分で確信がもてなくなった直哉の姿。

DVとかパワハラとか、こういう心理に追い込まれるのって女も男も同じなんやと思うけど、「俺の気分に敏感になれ」とほとんど暗黙のうちに求められ続ける女ではなくて、25歳の直哉の話で書いてるところが、平安寿子のセンスええなあと思う。

(8/7了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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