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ママン(II)

 あらすじは知っていたといっても、「殺人をおかした主人公が、それは太陽のせいだと言う、よくわからん小説」という程度のことだ。「きょう、ママンが死んだ。」という書き出しから読んでみると、きっちりと書かれた小説と思えた。たしかに主人公は「それは太陽のせいだ」と裁判で述べる。私には、ママンの葬儀を詳しく述べた第一部が印象に残った。それは、ついこのあいだ幸田文の父を送った記録を読んだためかもしれない。ムルソーは、母親の遺骸を見ない。泣くこともなかった。裁判において、そのことが(そして母親の葬儀の翌日に女友達と海水浴にゆき、喜劇映画を観、共に寝たというようなことが)ムルソーの非人間性の証のように扱われる。

 この少し古い(30年近く前の日付の)文庫は、古本屋で買ったような気もするが定かではなく、父ちゃんか母ちゃんの持ち物だったのを借りてきてずっと積んでいたような気もする。この文庫がもし父ちゃんか母ちゃんのものだったとしたら、巻末の解説に赤鉛筆で線を引いているのは、父ちゃんか母ちゃんかもしれない。解説には、カミュが『異邦人』の英語版に寄せた自序(一九五五年一月)が引かれている。

▽「・・・母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告されるおそれがある、という意味は、お芝居をしないと、彼が暮す社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。ムルソーはなぜ演技をしなかったか、それは彼が嘘をつくことを拒否したからだ。嘘をつくという意味は、無いことをいうだけでなく、あること以上のことをいったり、感じる以上のことをいったりすることだ。しかし、生活を混乱させないために、われわれは毎日、嘘をつく。ムルソーは外面から見たところとちがって、生活を単純化させようとはしない。ムルソーは人間の屑ではない。彼は絶対と真理に対する情熱に燃え、影を残さぬ太陽を愛する人間である。彼が問題とする真理は、存在すること、感じることとの真理である。それはまだまだ否定的ではあるが、これなくしては、自己も世界も、征服することはできないだろう・・・」(『異邦人』解説、142ページ)

 ここのほとんどの部分に赤鉛筆で線が引いてある。
 
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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