FC2ブログ
 
読んだり、書いたり、編んだり 

A3(森達也)

A3(エー・スリー)A3(エー・スリー)
(2010/11/26)
森達也

商品詳細を見る

暮れに本屋で「A3が出てる~」と見かけて、買うかどうしようかとぴらぴら立ち読みしたが、ちょっと厚いのでやめて、図書館にリクエストを出していた。思ったより早く本がきて、うしろに予約待ちの人がいるというので先に読む。校正仕事の合間あいまに、数日で読みおえる。

「A」「A2」も見たし、本も読んだけど、「A3」が連載されていたことは全く知らなかった。2005年~2007年のあいだ、月刊PLAYBOY誌に書かれたものが、この本のもとになっている。

前作とはちがい、『A3』のAは意味がこめられている。麻原彰晃のAだ。連載時に同時並行で進行していた麻原法廷の顛末が主軸となっている。

▼思い出してほしい。考えてほしい。あの事件はなぜ、どのように起きたのか。彼と事件によって、この社会はどのように変わったのか。現在はどのように変わりつつあるのか。
 そして彼とはいったい、何ものであるのかを。何を思い、何を願い、何をしようとしていたのかを。(p.11)
近代司法は、どんな容疑者も有罪確定までは無罪と推定される存在だという「無罪推定の原則」を、法にもとづく「適正手続き(デュープロセス)」、どんな行為が罪になりどういう罰が科されるかはあらかじめ法律でさだめておくべきという「罪刑法定主義」とともに、最重要なものと位置づけている。そのはずだった。

どうもその原則が守られていないらしいということは少しずつ分かってきているが、たとえ建前であろうとも、この原則が大事だということは揺るぎないものだと私は思っていた。

『A3』を読むと、その「最後の一線」がずずずっと消されてしまったような怖さを感じる。一審判決確定で審理が打ち切られた異例づくめの異常な裁判は、麻原だから、オウムだからという理由で、構わないのだということになってしまった。オウムには常識もくそもないやろ、オウムに人権なんかあるか!といわんばかりの世論、そして識者のコメント。その勢いは、「北朝鮮」につながるものに対しては何を言っても、何をしても構わないというのと似ていると思える。

▼確かに僕も、仮に麻原彰晃が正気を取り戻したとしても、法廷の場で事件の真相が解明されるという全面的な期待はしていない。その可能性はとても低いと考えている。
 でもだからといって、手続きを省略することが正当化されてはいけない。「期待できない」という主観的な述語が、あるべき審理より優先されるのなら、それはもう近代司法ではない。裁判すら不要になる。国民の多数決で判決を決めればよい。国民の期待に思いきり応えればいい。ただし、その瞬間、その国はもはや法治国家ではない。(pp.272-273)

例外が判例となっていく怖さ。森が書くように「誰かに適正な裁判を受けさせる権利を守ることは、僕らが公平な裁判を受けるための担保」だと思うが、その担保が空証文になってしまったような怖さ。

麻原被告の状態はおかしい、少なくともこのままで裁判を維持できる精神状態とは思えない、というのが裁判を傍聴し、麻原被告に面会した人から様子を聞いた森の印象だった。だが、メディアではそれは「詐病」なのだ、刑事責任を逃れようとしているのだと大量に報道されてきた。

「詐病」という章の、裁判所に精神鑑定を依頼されて「麻原被告に訴訟能力はある」と結論づけた鑑定書の話を読んでいて、私は『「おっちゃん」の裁判』を思い出してならなかった。手話もできない、字も読めない、もちろん口話も無理というおっちゃんを訴訟能力ありと断じた検察の、理解しがたい理屈と同じようなものを、この鑑定書に感じた。

森達也は、オウムを「絶対的な悪」として描くことをどうしても受け入れられなかった一人だが、世の中の勢いとしてはこっちが絶対的な少数派なんやなあと、厚い本を読みおえてつくづく思う。いま貸出の旅に出ている「A」「A2」が戻ってきたら、またみてみようと思う。思い出して、考えるためにも。
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/1670-9a3981de
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ