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今日もやっぱり処女でした(夏石鈴子)

『きのうと同じに見えるけど』を読んで、読みながら、ああそうそう、山口あおばはこんな人で、周りの人はこんなだったなと思いだせる書き方にはなっていたが、やはり戻って読みたくなったので、『今日もやっぱり処女でした』を借りてくる。

今日もやっぱり処女でした今日もやっぱり処女でした
(2008/10/08)
夏石 鈴子

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いちど読んだ話だけれど、「その後」のあおばの生活をもう少し読んだあとに、ちょっと戻って読んでみると、「あおばさん、去年はこんなことを考えていたのですね」という感じ(物語のなかで、そんなにさくさくと時間は経っていないのだが)。

あおばが、イラストレーション塾のちらしを見て、電話をかけて、先生の家まで行って、話をする、という場面。北川先生がこんなことを言う。
▼「あのね、イラストレーターって一人で机に向かって絵を描く仕事だと思うでしょう。でも、イラストを描くためには、編集者でもどこかの代理店の担当者でもいいけれど、描いてもらいたいな、と思っている人と会って話をして、描くべきイラストのイメージを掴まないといけないの。人とちゃんとやりとりできるかどうかも、大切な要素で、山口さんは、それがちゃんとできる。もちろん、それだけじゃ、イラストは描けないけれど、まず第一段階は合格」(p.44)

こないだ読んだ内田樹の『街場の教育論』に、就職面接の話があった。内田が、ある出版社の編集者に聞いたという「面接の基準」は、「自己PRの練習が面接をクリアするカギ」みたいに思っている人にとっては、衝撃やろうなと思うもので、「いっしょに仕事をした時に、楽しく仕事ができるかどうか」だというのである。

大学やその付近で、学生に"キャリア教育"を授けようという時に、たぶんまず言われるのは「自分の棚卸し」である。そして、自分はこれができるとかあれができるとか、これが得意とかあれは任せろとか、そういうのを積みあげていくような話にたぶんなっている。そのめざすところは自己PRである(たぶん)。

「これができる」「あれができる」「これが得意」「あれは任せて」という項目が多い人から採用するのだという会社も中にはあるのだろうけれど、そういうPRの練習をひたすら積むことで出来上がってくる、「わたし!」「わたし!」「わたし!」「わたし!」というぎらぎらムンムンした人がたくさんいる職場は、考えてみるに、しんどそう…。

そういえば、夏石鈴子の『いらっしゃいませ』という会社小説(別名、受付嬢小説)にも、就職面接に来て余裕かましてみせる「自分ちゃん」が描かれていて、その「自分ちゃん」は二次面接くらいまではとおるのだが、最後にはいなくなっていたのだった。

『いらっしゃいませ』に出てくるみのりや、この山口あおばは、そういう「自分ちゃん」ではない人物として描かれているなあと思う。

派遣の同僚・福貴子さんが、かつて中学校時代にいじめられていた頃の話をあおばにしてくれる。ある日学校を無断欠席した福貴子さんは、たまたま駅で会った遠足の小学生の子が「僕たちは千葉の鴨川シーワールドにシャチのショーを見に行きます」と言ったのを聞き、「お姉さんは、どこへ行くんですか」と訊かれて、「あら、不思議。わたしもそこへ行くのよ」と言って、切符を買い、全然知らなかった水族館へ行った。
▼「わたしはね、あの日全然知らなかった水族館へ行って、とっても楽しかったの。学校以外のどこかへ行こうと決めたのは、わたしだけど、行き先が鴨川になったのは、偶然で、しかも困っていた亀を助けることができたし嬉しかったわ。あの日からね、なんとなく自分の頭以外の事柄に身をまかすのも、ひとつの選択なんだなぁって、感じたの。
 あそこで一日中、ゆったり泳ぐ魚を見てね、わたしは、また明日から憎まれるためだけに学校に行くんだなぁって思ったわ。いいことにも悪いことにも、いつかは終りが来るんだろうけれど、その終りがいつかわからないって、つらいわね。予定が立たないから。…」(p.129)

福貴子さんは、笑うアシカのショーを見て、大きな水槽の前で、ひらひら泳ぐエイを見て、その時水槽と岩の間に挟まった海亀の危機を見つけ、大急ぎで係の人に知らせた「亀の恩人」なのである。

自分の頭以外の事柄に身をまかすのも、ひとつの選択なんだなぁ


横田弘の対談集で、自己決定がどうのこうのという話があちらこちらで出てきたが、たとえば米津知子が言っていた「すべての責任を負わなくていいっていうのを自己決定の中に入れてもいい」という話は、この福貴子さんの「自分の頭以外の事柄に身をまかす」に似ている気もした。
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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