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この世界の片隅に(こうの史代)

こうの史代のこのマンガ、だいぶ前から「よみたいなあ」と思い、「買おうかなあ」とも思っていたが、いただきものの図書カードの残額がまだあるし、リアル本屋でみつけたらと思っていた。しかし、そう思ってから、なかなか本屋でみつけられず(駅前の本屋は、『長い道』が消えたあと、こうの史代作品がまったくない状態)、昨日ようやく実家の最寄り駅の本屋で3冊そろいであったので購入。

買おうと思っていたのに、タイトルど忘れ。「こうの史代の、上中下と3冊のマンガで、広島の呉が舞台の作品」と本屋の人にたのんで探してもらった。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)  この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)  この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)
戦中の広島、得意なのは絵を描くことと海苔をすくことだけという浦野すずは、軍港のある呉の北條家へ嫁ぐ。夢中になると、まわりのことをすぐ忘れてしまうすず、おつかいに行けば迷子になるすず、がさつともおおらかともいえる性格で、すずは日々を生きてゆく。空襲が頻繁になり、食糧事情はわるくなっていき…そんな昭和18年の暮れから20年に戦争が終わるまでの戦時の暮らしを、こうのはだらだらと描く。

戦死したという兄がおさめられた、あまりに軽い骨箱のなかにあったのは、冴えない石ころだった。その石を見て、すずの母はこう言ってのける。

冴えん石じゃねえ
せめてこっちのツルツルのんにしとこうや
やれやれ 寒い中 呼びつけられて
だいいちあの要一がそうそう死ぬもんかね
へんな石じゃ 帰ったとき笑い話にもなりやせん

(中巻、pp.104-105)

すずは、夫との帰り道「お母ちゃんがあんな具合では気の落としようもありやせん」とつぶやく。『ああ保戸島国民学校』の洋太の母のように、息子の戦死の知らせにショックを受けて寝込んだ母も、きっと少なからずあったのだろう。そして、すずの母のように、そうそう死ぬもんかね、やれやれと言った母もあったのだろう。

こうの史代が「戦時の生活がだらだら続く様子を描く事にした」(下巻、あとがき)のは、こんな母や、あるいは村の隣保館で行き倒れていた「どこの誰か顔も服もべろべろで判りやせん」姿であった兵隊さんが原爆にやられた「うちの息子じゃったらしい」「自分の息子じゃと気づかんかったよ うちは」と言う苅谷さんや、そんな人たちを描きたかったからかなあと思った。

配給帰りに迷子になったすずが、遊郭に迷いこみ、道を訊ねたときに、友だちになったリンさん。
子どもができたかと思いきや、栄養不足と環境の変化で月のめぐりが悪うなってるだけとがっかりしているすずに、子どもは楽しみかね、うちの母ちゃんはお産のたびに歯が減ったよ、しまいにゃお産で死んだよ、それでも楽しみなもんかねとリンは訊く。

出来のええアトトリを残すのがヨメのギムじゃろうと言うすずに、男が産まれるとは限らん、出来がええとも限らん、ヨメのギムが挫折したらどうなるん、とリンは言う。

うーーんと悩むすずに、「ああ でも」とリンはこう続ける。

子供は居ったら居ったで支えんなるよね
困りゃあ売れるしね!
女の方が高いけえ アトトリが少のうても大丈夫じゃ
世の中 巧うできとるわ
子供でも 売られても それなりに生きとる
誰でも何かが足らんぐらいで この世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ
 すずさん

(中巻、p.41)

他のまんがもそうだが、こうのまんがには「ほとんどセリフがない話」が時々出てくる。『この世界の片隅に』でも何度か絵ものがたりのようなのが出てくる。それを、じーっとながめていると「まんがをよんでるなあ」という気分になる。

広島弁がなつかしい。

◆上巻の51ページまで"試し読み"
http://sokuyomi.jp/product/konosekain_001/CO/1
◆こうの史代の「平凡倶楽部」(まんが)
http://blog.heibonsha.co.jp/heibonclub/
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第66回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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