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今朝子の晩ごはん 嵐の直木賞篇(松井今朝子)

松井今朝子というと私が知っているのは『非道、行ずべからず』(ヒドウ ギョウズベカラズ、とよむ)だけ。これも、その昔、雑誌『鳩よ!』に連載されていた。

私が『鳩よ!』を定期購読していたのは別の連載めあてだったけれど、まわりの連載も読んでいたから、まったく知らなかった書き手の文章を読んだり、名前くらいは知っていても読んだことのなかった作家の作品を読んだり、雑誌の定期購読はその「雑」というところがオモロイよなーと思う。

で、『非道、行ずべからず』のほかは、まったく知らずにいた松井今朝子の、小説ではなくて、晩ごはんネタの本。図書館で、ぶらぶらーっとしていて、手にとってみた。これは松井がほぼ毎日書いているという同名ブログをまとめたものだそうで、ちょうど松井今朝子が直木賞をとった前後の半年分である。(松井今朝子が直木賞をとっていたのを初めて知った。『吉原手引草』という作品だそうである。)

今朝子の晩ごはん―嵐の直木賞篇 (ポプラ文庫)今朝子の晩ごはん
嵐の直木賞篇

(2008/10)
松井 今朝子

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これがおもしろかった。
晩ごはんネタもところどころ作り方つきでお役立ちだが、松井が綴る「日々ネタ」や「時事ネタ」への悲憤慷慨が、おもしろかったのである(飼っている亀と、乗馬の話がこれまたおもしろい)。また、「N賞受賞」がどういう風に生活に侵入してくるのかもよくわかり(尋常ではない量のファックスや郵便や宅配便がくるとか、やたら顔写真を求められて撮影ばかりあるとか)、へぇぇと思う。

たしかにN賞もA賞も(とくにこの1月の受賞者については、業務上の関心もあってよく見ていた)、新聞でも雑誌でも写真入りでどどどーっと記事が出る。松井が経験したあれこれも、人によるだろうが、似たようなことを受賞者は経験するのだろうなと思いつつ読む。

N賞といえば、いま毎日新聞日曜版に石田衣良が書いている「チッチと子」という連載小説が、青田という作家を主人公に、作家専業で暮らしていくのがどういう具合かを書いている。「直本賞」にノミネートされるも落ち、書いた作品の増刷がかかるかどうか、初版部数がどうなるか…小説家の心配はつきない。しかも青田は、妻を交通事故で亡くし、一人息子をひとりで育てているという父子家庭モノでもあるのだ。先週日曜の話は、青田がふたたび「直本賞」にノミネートされ、発表の日の「待ち」時間を書いているところだった。

で、松井の書くのは例えばこんな具合。

▼…世の中には大変なわりに報われない稼業だからこそ子どもに継がせるしかないと判断される方もいて、それはそれで本当に頭が下がる話である。戦後の歌舞伎役者も本来はわが子に芸を伝えなければ滅んでしまうという危機感の下に、血縁世襲を蔓延させてしまったのであって、今どきの女性誌がいうような「お家柄」なんて感覚は、私の若い頃には微塵もなかった。料理屋にしろ、芸能人にしろ、およそ半世紀前まで今よりはるかに社会的地位が低かったはずで、それが近年とみに急上昇したように見えるのは、社会全体の産業構造の変化とも関連する。すなわち、カタチあるものから、カタチのないものに経済価値の比重がスライドしたせいだろうと思う。

 割に合わない、けれど大切な仕事や技術を子孫に伝えてらっしゃる方々には非常な敬意を払うものだが、親の七光りでただいい目を見たいというようなおバカな跡継ぎと、おバカに群がってうまい汁を吸いたい取り巻きによる安易な血縁世襲は本当にこの国をダメにしてしまうとしか私には思えない。料理屋や役者はまだ罪が軽いほうで、何より許し難いのは政治家であります。(pp.222-223)

この「直木賞篇」の前の半年をおさめた『今朝子の晩ごはん』があるそうなので、それも読みたいし、『非道、行ずべからず』以外の小説も読んでみようかな、と。
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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