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わたしの子どもたちへ―笠木透詩集


わたしの子どもたちへ―笠木透詩集
笠木透(詩)
堀尾一郎(絵)
径書房
\1600
1985年

「クッキングハウス」の本を読んでいたら、笠木さんの歌とか笠木さんのコンサートという話がしょっちゅう出てきて、どんなんやろ?と探してみたら、詩集があったので、図書館で借りてきた。

表題作「わたしの子どもたちへ」は十年余りをかけて、北海道や沖縄まで、口から口へ、手わたし口うつしで伝わっていったという。

▽生きている鳥たちが
 生きて飛びまわる空を
 あなたに残しておいて
 やれるだろうか
 父さんは

(「わたしの子どもたちへ」第一連、p.20)


笠木自身が曲をつけた歌、各地の民謡に曲をとった歌、高石ともやが曲をつけた歌などもある。

「パパラギ」からとられたシリーズもおもしろかった。


▽お腹いっぱいすきなだけたべて
 頭の上には屋根があって
 村の広場で祭りをたのしむ
 これ以上働くことなんてないさ

 人間の仕事 それはよろこび
 人間の仕事 それはたのしみ
 人間の仕事 汗をながして
 人間の仕事 心あつめて
 人間の仕事 歌がながれて
 人間の仕事 しなやかな手足

(「サモアにあるのは人間の仕事」さいごの2連、pp.145-146)


で、詩をよむと、この人が歌ったのも聞きたくなるのだった。どこかで手に入るかな。

画像は、同じタイトルのCDジャケット写真。


笠木透作詞の「クッキングハウス」の歌は、ここで聴くことができる。
http://www.cookinghouse.jp/cd_books.html

生きながら火に焼かれて


生きながら火に焼かれて
スアド(著)
松本百合子(訳)
\1,680
ソニー・マガジンズ
2004年

白いマスクをかぶった女性の顔が表紙になったこの本のことは、出たときからずっと知っていた。“名誉の殺人”(家族の恥となり、家族の名誉を汚した女は身内の人間によって死をもって罰される)問題をあつかった本だということも分かっていた。

が、読むのは気が重くて、読んでいなかった。

職場で、ときどき「なんかいい本ない?」と訊いてくるおっちゃんから、「これは、ええ本やったで、読み!」と強くすすめられ、借りてきて、読む。おっちゃんは「ひどい話やなぁ…ほんまに今もこんな野蛮な国があるんやろうか」とも言っていた。

▽動物や赤ん坊まで、日常的にあまりにたやすく死に至らしめる両親の姿を見ているうちに、いつか自分もあっさりと殺されるのではないかと怯えるようになってしまったのだ。私は心の中でよくつぶやいていた。いつか私の番、あるいは妹の番がくる。両親は殺そうと思えば、好きなときに私たちを殺すことができる。成長していようが子供だろうが、そんなことは問題ではない。私たちに命を与えたのは両親なのだから、彼らにはその命を消す権利もあるのだ、と。(p.28)


女に生まれたという、そのことで、日々殴られ蹴られ髪をひきずられバンドで鞭打たれ、死の恐怖につねにつきまとわれながら、女は育っていく。


▽村の男たちは、女の子ひとりと牛一頭、どちらかを選ぶとしたら、皆、例外なく牛を選ぶ。父は私たち女の子がどれだけ役立たずかということを、たえず繰り返していた。「雌牛は乳がしぼれる、子牛もできる。乳と子牛で何ができる? 市場に売りにいける。家に金を持ってこられる。つまり、牛は家族の役に立つんだ。しかし、娘はどうだ? 家族のどんな役に立てるというんだ? 何もないじゃないか。羊は家に何をもたらすと思う? 羊毛だ。羊毛を売って、家に金を持ち帰れる。牛にしろ羊にしろ、娘よりずっとましだ」
 私たち女の子は、さんざんそう聞かされているうちに、本当にそうなのだと思い込んでしまう。そもそも、牛や羊たちは私たちよりずっと扱いがよかった。牛も子羊も、殴られることなどないのだから。(p.30)


だから、十四人子どもを産んだはずのスアドの母は、生き残っている子ども(5人か7人か)のほかは、産まれてすぐに羊の皮で顔をふさいで窒息死させている。その子どもが女の子だったから。スアドは、母が子どもを殺す場面も見てしまった。
弟が、妹を絞め殺す場面も見てしまった。

ずっと記憶から消してしまっていたが、そうだったのだ。


近所の青年に恋をしたスアドは、妊娠したことに気づく。野原で3度セックスした結果だ。結婚前の性交渉は家族の恥。いや、そういう事実があったかどうかは問題ではなく、あの女はそういうことをしたらしいという噂であっても、憶測であっても、女が家族の名誉を汚したと両親や男たちに認定されれば、それは罪となる。そして、女は身内の手によって殺され、殺した男は英雄とされる。


スアドは、姉の夫からガソリンをかけられ火をつけられる。


瀕死の重傷を負ったスアドは、病院でジャックリーヌに出会い、助け出される。朦朧とした意識のなかで産みおとした子ども・マルアンも、ジャックリーヌは探し出してくれ、スアドはスイスでの治療を経て、マルアンとともにヨーロッパへ渡る。


生きながら火あぶりにされた村での生活と、救出後の第二の人生について、スアドが語ったものをまとめたのがこの本である。


スアドの傷は深い。今でも火は恐ろしい。

うちへかえろう


うちへかえろう
小川内初枝
\1,470
小学館
2008年

装幀だけみると、絵本かなと思わせる。
大阪市のど真ん中にある1DKに住む野村圭、35歳。派遣社員としてクレジットカードの申込書の不備欄を照会して埋める仕事をしている。ある日、書類のなかに十数年も生き別れ状態の姉の名前をみつけて、両親にも連絡し、逡巡のあげく、姉に電話したら、つながった。

電話でときどき話す関係がしばらく続いてから、圭と姉は14年ぶりに会う。
姉が思い出す子どもの頃のおそろしかった思い出は、母親が育児ノイローゼのようになったため、伯母のところへ預けられにいくときにクルマが崖から落ちかかったことだ。

▽「…それにしても、お父さんって、昔から運転が下手やったんやね」
 下手もいいところよ、と大きく頷いてみせた姉は、そのまましばらく黙り込み、そして、
 「それでも人の子の親っていうだけで、まともにみられるのかな」と呟いた。話の脈絡がつかめず、私は姉の様子を見つめるばかりだった。
 「私らはいったい何なんやろう。子どもを産めへんのは半人前や、って言われるくらいならまだええよ。せやけど、少子化だの何だのって、まるで罪人扱いされることもあるやん?でも、私が子どもを産んでも、私みたいな、誰にも愛されへん歪んだ子が育つに決まってるねん。どうやて愛したらいいのか分かれへんねんもん、お母さんと同じことを繰り返すだけやわ、そんなん、子どもがかわいそうなだけやん。その歪んだ子が、誰か殺してみ。人口はプラスマイナスゼロやんか。いや、私自身が自分の子どもを殺してしまうかもしれへん。せやから私は、自分の良識でもって子どもを産めへんことに決めてん」(p.141)

姉が指摘する、母親についての殺伐とした思い出はこんなものだ。

▽そうなのだ。私たち姉妹には共通の、殺伐とした子どものころの思い出がある。風邪を引くたびに母から、「体調管理は自己責任の問題」だと、とても子どもに浴びせる言葉とは思えないような小難しい言葉で罵られたり、「私にうつったらどないするの?」と責められたりしたものだった。
 「せっかく育ててやってるのに」
 最後に決まって言われるのはこの言葉で、ことに姉は、何につけても母のその言葉に責めたてられていた。ある日のこと、学校から帰ってきた姉に、母が「お風呂掃除をしなさい」と言いつけた時のことだ。私は居間のソファに座って夕方のバラエティー番組を見ていた。
 「ちょっと熱っぽいから、今日は無理」
 と、姉は珍しく母に逆らった。目の前のテーブルで年賀状を書いていた母の手がぴたりと止まり、顔つきがみるみる変わってゆくのが分かった。
 「それなら、この家から出て行きなさい。せっかく育ててやってるのに」
 母の怒鳴り声に弾かれたように、居間の戸口に立っていた姉が、ばたばたと走り寄ってきて、私たちの目の前に仁王立ちになったのだ。
 「お、お母さん」
 姉の声はぶるぶると震えていた。
 「何よ」
 「日本の女の人の平均寿命は八十くらいやろ。お母さんが私を育ててくれた年数と同じだけ、私もお母さんの老後の面倒を見るから。二十年育ててくれたら、八十から二十引いて、六十から面倒見る。二十二年育ててくれたら、五十八から面倒見る。私も義務やと思ってお母さんの老後の面倒見るから、お母さんも義務やと思って私のことを育ててよ。いちいち、育ててやってるなんて、言わんといて」
 それだけを一気にまくしたてると、姉はわあっと声をあげて泣きだした。おそらく、姉が前々から懸命に考えていた言葉なのだろう、と私は思った。(pp.78-79)


お姉ちゃんと妹の話でもあるし、家族の話でもある。
 
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在92号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第69回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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