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ツォツィ


ツォツィ
アソル・フガード著
金原瑞人、中田香訳
\1,575
青山出版社
2007年

▽ツォツィはそのとき気づいた。もうかつての日々にはもどれない。しかも、すべてはまだ始まったばかりで、これからもっとたくさんのことが起きる予感があった。ただ、次に何が起こるかはわからない、少なくともツォツィはそう思った。だが、この一日のあいだに、自分の人生に、突然、不思議な転機がおとずれたことだけはわかる。この先、もっといろんなことが起こるんだろう。いまだって赤ん坊がいる。明日になれば、かまってもらおうと泣きわめくだろう。(タウンシップにもどって赤ん坊にミルクをやろう。そのころには明るくなっているだろう)雌犬のこともある。これまでになく、そうした記憶のかけらをほかにも見つけたい気分だった。それから、物乞いに対する同情と、「なんでおれを殺そうとする?」と問われたときに気づいたこと。男の生死を決めるのは自分だという発見。これまでアタリマエだと思っていたすべてのことが、自分や自分の選択で決まっている。何よりもこの発見をしたことで、この二十四時間の隠された意味に手が届いたような気がした。
 ツォツィはつねに人生は一直線だと考えてきた。夕方、ターミナルプレイスから物乞いのあとを追ったときのようにわきへそれることもなく、横を走る鉄道の線路のように決まった場所へひた走る以外に選択肢はないのだと。それに、記憶が欠落していて、何ひとつきちんと思いだせないために、現在のできごとを過去の経験になぞらえることさえしなかった。つまり、ツォツィには、いまという時間しかなかった。一瞬の連続によって前へ運ばれるだけの人間には、なんの疑問も後悔も生じない。だが、どうやらそんな自分はまちがっていたらしい。たった一日で、人生に根幹が揺らいでしまった。
 人生には選択肢がある。そのことについては、今日の午後、すでにうすうす気づいていた。ブッチャーやアープといっしょに部屋にいても、今晩の「仕事」を選べなかった。そのうちに、選択肢というものが、自分の想像よりはるかに幅広いものだとわかった。「仕事」の種類だけでなく、どうやって、誰を襲うか決めなくてはならない。それに、殺しをするかどうかも選択肢のひとつだ。
 ある疑問が弾丸のようにツォツィの頭をぶち抜いた。おれはいつそんな選択をしたんだ?怒りと興奮がごちゃまぜになり、ツォツィは身震いした。立ち上がって、あたりをきょろきょろ見回す。おれはそもそも、いつ、どうやって、そんな選択をしたんだ?(155-157pp.)
 
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在92号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第69回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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