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読んだり、書いたり、編んだり 

笑いすぎて、涙(II)

 著者がもう八十に手が届こうという頃に書いたものだという回想の分を割り引いても、「野心だけがばかにあって」とこの世代の女性が自分のことを書き記すものは、ひじょうに珍しい印象を受けた。著者とほぼ同い歳の林芙美子(1903年生)の『放浪記』なんぞを久々に読み返したくなった。
 
 もうひとつ興味をもったのは、「拠りどころ」と題された四章で、T(田河水泡)の、神との関係などが書かれている。「価値というのものは、相対的なものだから、絶対的価値というものはみとめない」と、神否定の姿勢をTはもっていた。けれども、著者が教会へ通うことを否定することなく、キリスト教については関心をもっていたらしい。あるときの、Tと牧師とのやりとりがおもしろい。

▽あるとき、Tは、ぶしつけに、
「先生は、神様がわかっているのですか?」
 と牧師にきいた。牧師は正直に、率直に答えてくれた。
「いいえ、わかっていません。神様というものは、だれにも、わからないものです。人間が認識したり、了解する力の及ばない方なんです。ただ私たちは、わからないけれど、そして、この目でみることはできないけれど、その存在を、その力を、信じているんです」
 これをきいて、Tはほっと安心した。
 Tは、信仰者というものは、みんな神様をよく理解し、どういうものだか、ちゃんと認識しているもの、と思いこんでいたのであった。自分では、どうしても神がわからない、認識できないから、絶望し、なやんでいたのである。(156ページ)

***
 日暮れまで本を読んですごし、晩ご飯は近所のカレー屋へ入ってみる。モッツァレラチーズカレーというのを頼んでみたら、チーズがのっているだけでなく、揚げた茄子やカボチャ、かるく炒めたタマネギ、ピーマン、人参、キノコ、さらにトマトソースが散らされて、見た目にもゴーカで、うまかった。

 帰ってから、三好春樹の『ブリコラージュとしての介護』(雲母書房、2001年)を読む。初出一覧によると、9割方が「Bricolage」誌に掲載されたものである。定期購読してるのに本まで買ってしまった!と思ったが、読んでみると、”再読感”がほとんどない。「障害の定義をもっと変えるべきだ」って、「Bricolage」に載ってたっけと思ったくらいである。これはWHO(世界保健機構)の”障害”の定義分類の仕方に異議あり!と書いた文章で、図もあって、よくわかる。

笑いすぎて、涙(I)

 昨晩は、しまいかけの『人を覗にいく』を読み終えて就寝。
 今日は朝から早起きの同居人に電灯を点けられて、布団のなかでメガネもかけずに中山信如の『古本屋おやじ』(ちくま文庫、2002年)を読み始める(こんなことばかりしているから眼がなお悪くなるのであろう)。これが爆笑もので、時折とまらないくらい笑わせてくれる。とくに、誤植がらみの話と女房の話が可笑しい。朝ご飯のあと、さらに布団にもたれて至福の本読み。ケタケタ笑い続け、なんどか涙をふいて、読み終える。

***
 簡易なる昼ご飯のあと、高見澤潤子の『のらくろひとりぼっち』(光人社NF文庫、1996年)を読む。坪内祐三の『シブい本』に出てきて(この本は表紙にのらくろが使われていた)、メモしていた本だった。私はなぜか品切れだか絶版だと思い込んで図書館で借りるしかないと思っていたのだが、じつはまだまだ現役の本で、先日買ったのである。サブタイトルのとおり「夫・田河水泡と共に歩んで」の記である。

 読みながら、ずいぶん年輩のひとの話だと思い、読み終えてから調べてみたら、著者は1904(明治37)年の生まれ、その兄(小林秀雄)が1902(明治35年)の生まれ、田河水泡(本文ではTと記される)は前世紀ではなくさらに前の世紀の人で、1899(明治32)年の生まれだ。ときどきふしぎなほどの説教くささがあるが、このお歳ならこんなものだろう。田河水泡も売れ始めたばかり、小林秀雄も文壇によじのぼりかけた頃の話は、両者ともすでに”評価の定まった”印象が強くある私には、そらみんな若いときがあるよなアとは思うもののフシギな話に聞こえる。さらに長谷川町子(1920年生)が田河水泡の弟子にあたるというので、そりゃあ百年近く前に生まれた人の話だからなアと思う。

 私がおもしろいと思ったのは、この明治生まれの著者の若い頃の話である。1904年生まれといえば、幸田文や佐多稲子と同い歳なのだ。

▽私は、あまり才能も能力もないくせに、少女時代から、野心だけがばかにあって、絵がうまいね、などといわれるとすぐ絵描きになろうと思ったり、作文がほめられれば、小説家になりたいと思ったり、テニスが面白くなれば、テニスのチャンピオンになってみようと思ったりした。何か一つのものにうちこんで、やりとげてみたい気もちはあったのだが、どれが本当に自分がやれるものであるか、わからなかったのである。(88ページ)
 
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在92号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第67回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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